アオハル

アオハル -1-


台所の小窓から覗く空は、青々として眩しかった。まだ陽が昇ってそれほど時間は経っていないのに、鳥たちが元気に鳴く声が聞こえてきて、ああ、夏が近いんだなあ、と総司はそんなことを思った。
「歳三さんはまだ起きてないのかい?」
台所で朝餉の準備をするふでが総司に話しかける。朝からキビキビと動く御台所は一見不機嫌そうな顔をしているけれど、それが地顔なのだと長く暮らす総司は知っている。
「はい。私は明るくて目が覚めましたけど、歳三さんはどうやらそれくらいじゃ起きないようですね」
「困ったねえ」
食客たちの味噌汁を作るふでは、小皿で味見をして「良し」と頷いた。田舎味噌の味付けは、既に総司にとって「おふくろの味」だ。一方、総司は握り飯を作っていた。試衛館に居座る食客は五人。特に原田は良く食べるので、人より大きな握り飯にしなければならない。
(あとは、歳三さんと出稽古に行くから、その分も作らなきゃ…)
今日は昼から出稽古だ。試衛館塾頭の総司と師範代の土方が日野の佐藤彦五郎の元へ出向く。自衛意識の強い農民たちが集まる彦五郎の道場は、土方の姉の嫁ぎ先でもあるので、総司にとっては親しみのある場所だった。なので、こうして朝、張り切って準備をしているのだけれど、土方にしてみれば実家に帰るようなもの。いつまでもふらふらしている土方を姉ののぶは良く叱りつけているので、出稽古先にしては気がすすまないのだろう。まだ眠っている。
「これ、持って行って頂戴」
ふでがそう言ったのは総司へではなく、勇の妻ツネだ。ツネはとても物静かな性格で、口煩いふでと違って口数が少ない。しかし由緒ある家柄の娘らしく洗練された仕草と物腰、控えめな言動が、ふでには気に入られているようで、嫁姑問題は今のところなさそうだ。
ふでが味噌汁を取り分けて、盆に乗せたものをツネが客間へ運んでいく。客間には食客たちが集い、今か今かと朝餉を待っているだろう。総司はせっせと握り飯を作り、綺麗な三角形にした。朝餉用のものにはノリを巻き、出稽古にもっていく分は竹の皮で包んだ。
「…よし」
総司は満足げに頷いて、台所を出ていく。これから兄弟子を起こしに行かなければならないのだ。


「ふぁあ…あーあ…」
人目も憚らず、大きく口を開けて土方があくびをする。億劫そうな姿に、総司の方がため息をついた。
「歳三さん、そろそろ一人でちゃんと起きてください。子供じゃないんだから…」
「別にいいだろう。お前だって俺を起こすおかげで、早起きの習慣ができたんだから、感謝しろよ」
「横暴だなあ…」
事あるごとに恩着せがましい兄弟子の相変わらずの理不尽な言い分で、総司はもう一度ため息をつく。七つも年は離れているのに、まったくそんな気はしないのだ。結局、土方は朝餉の時間になっても起きて来なくて、出発のギリギリまで布団の中にいた。やはり姉の所へ行くと言うことに気がすすまないようで、とても怠そうに支度をして、寝ぼけたままの出発となった。
「しかしあっちいなあ…汗が茹だる」
「もう夏が近いんですかね。歳三さん、ちゃんと傘を被ってくださいよ」
「はいはい」
竹筒の水を飲みながら、土方が適当な返事をした。総司は「もう」と嘆息しつつ、土方の傘に手を伸ばして、無理やりに被せた。
いつもは嫌がって「止めろよ」と抵抗する土方だが、何故か素直に総司のされるがままになった。そしてじぃっと総司を見た。
「歳三さん?」
「いや…お前、大きくなったんだな」
感慨深そうに呟く土方に、総司は「はあ?」と驚きの声が出た。
「もしかしてまだ夢のなかか何かだと思っているんですか?起きてくださいよ」
「ったく…お前は、本当に可愛げがねえ。お前の背丈が俺に追い付いてきたんだなって、思っただけだ」
「可愛げがないのは昔からですよ。背丈なんて、それこそ一緒に暮らしているのに、今更なことを…」
呆けているのか、わざとなのか、と総司が返答していると、土方があからさまに不機嫌になって、「もういい」と話を打ち切った。
顔を顰めて、足を速める。
(あれ…拗ねた?)
前へ歩いていく土方を追いかけて、総司も小走りに駆けていく。土方の横に並び横顔をまじまじと見ていると、「何だよ」とやはり不機嫌そうに
土方が訊ねてきた。しかし、土方の不機嫌は毎朝のことなので総司にとっては慣れきったことだ。
「…歳三さんは、子供っぽくなりました」
「あ?」
総司はふふっと笑う。
「昔、それこそ出会ったころは私も子供だったから、背丈が大きくて奉公をしている歳三さんはとても大人に見えましたから。だから今は少し距離が近くなって、歳三さんが子供になったみたいに感じます」
「…お前は、今でも子供だろ」
ふん、と鼻で笑って土方が言い放つ。総司は「酷いなあ」と言いつつ、それ以上は何も言わなかった。
その代わり
「歳三さん」
「ん?」
「そろそろ休憩にしましょう」
と、そういって朝握った握り飯を差し出したのだった。


-2-


八坂神社を通り過ぎ、佐藤家に到着する頃には昼もすぎていた。
「だからなあ、お前の作る握り飯は塩が効いてねえんだよ」
「塩が多いと、喉が渇くでしょう。前は歳三さんがそう言うから仕方なく塩を多く振ったら、辛い辛いって煩かったじゃないですか」
「お前は極端すぎるんだよ」
「そういうなら自分で作ったらいいじゃないですか」
佐藤家に到着するまで、喧嘩のような、じゃれ合いのようなそんな応酬を続けた。すると迎えに出たのぶはくすくすと笑って
「まるで兄弟みたい」
と言う。
のぶは足洗い桶と手拭いを準備した。
「総司さん、歳三は我儘でしょう。昔からこうなのよ、味噌汁ひとつとっても、毎日辛いや薄いなんてうるさいんだから」
「へえ」
総司は手拭いを受け取って足を清めた。その隣で「姉さんは告げ口が過ぎる」と土方はブツブツ文句を言う。
「そりゃあ、告げ口をしないと苦労するのは総司さんなんですからね。全く、この子のお嫁さんになる人が不憫だこと」
のぶは「ねえ?」と総司に問いかけるが、ここで同意してしまうと土方の機嫌を損ねてしまうので曖昧に頷いておいた。
「俺は姉さんの小言を聞きに戻ったわけじゃねえんだ。もう門下生は集まってるんだろう」
逃げるように姉の前から去ろうとした土方だが、のぶが「待ちなさい」と土方を引き留める。
「なんだよ」
「旦那様からお話があるそうよ。道場に行く前に、客間によって頂戴。総司さん、ごめんなさいね」
「いえ」
総司は首を横に振った。稽古が終わると一目散に帰る土方なので、稽古が始まる前にこうしてのぶやその旦那である佐藤彦五郎に引き留められることが多い。
「何なんだよ、話って…」
姉の婿にあたる彦五郎は、昔から土方のことを可愛がっており、まるで自分の子供のように接している。土方も兄だと慕っていて幼い頃からこの佐藤家には、よく入り浸っていた。
「いいから、旦那様が待っているから、早く行ってらっしゃい」
「…ったく」
姉には反抗的な土方だが、彦五郎の用件というなら是非もない。総司に荷物を押し付けて、客間へ向かっていった。
総司がその姿を見送っていると、のぶは「総司さん」と話しかけてきた。
「まだ歳三のこと、朝起こしてくれているの?」
「え?ああ、はい。だって歳三さん目覚めが悪くて…他の食客が起こしに行っても全然、起きてくれないんです」
「昔からのことだから、早々直らないのね。私も良く起こしに行っていたわ。あの子、総司さんに甘えているのねえ」
「はあ…」
(甘えているというよりも、扱き使われているような?)
内心首を傾げた。
「でも、もうそうしなくて済むかもしれないわ」
「え?」
どういう意味だろう、と総司はのぶをみる。しかしのぶは「内緒」といって微笑んだのだった。


それからほどなくして稽古が始まった。客間に向かった土方は戻って来なかったので、先にはじめてしまった。
「やっ!」
「やっ!」
「やぁ!」
近所に住む天領の民たちが集まり、天然理心流の木刀を振るった。身分は農民だが、豪農が多いこの辺りでは、自治意識から剣術を習う者が多い。
「もっと腕を上げて!足を開く!」
二十歳そこそこの若輩者である総司だが、既に塾頭として一目置かれている。稽古は近藤や土方よりも厳しいと評判で総司もそれは自覚していた。
(だから…苦手だなあ)
塾頭として出稽古に出掛けることが多いが、自分には向かないと内心思っていた。そもそも人に教えることが苦手でだからこそ厳しくしてしまう面もある。
(でも、こうじゃない)
剣術を始めたのは、強くなりたいからだ。一番になりたいとか、誰かを倒したいという具体的な目標はない。
でも、ただ、強くなりたい。そして自分がまだそれに足りていないことを、知っていた。
しかし、だからと言って何ができる?
(剣術を興すなんてとんでもないし、仕官して将軍様のお役にたちたいというのは、何か違う気がする…)
闇雲に剣を振っていれば、どこかにたどり着くのだろうか。それだけで、いいのだろうか。
「やめっ!」
総司の鋭い声で、素振りをやめる。皆が息切れを整えていると、ちょうど土方が道場へやってきた。
「歳三さん、遅かったですね」
「……ああ」
少しの沈黙のあとの、力ない返事。土方の顔色はあからさまに悪くなっていた。
(歳三さん…?)
しかし土方は己を奮い立たせるように、「構え!」と怒鳴り、稽古に参加したのだった。


-3-


普段通りに稽古が終わると、総司と土方は客間に招かれた。のぶに手料理を振る舞ってもらい、試衛館に戻るのがいつもの習慣なのだ。いつもながら多すぎるほどのおかずが並んでいる。もちろん客人を出迎えるのぶの礼儀正しさもあるだろうが、ときどき帰ってくる末の弟への愛情も籠っているのだろう。総司はそんなことは思った。
「美味しいです。お漬物は畑で採れたものですか?」
「ええ。今年は大ぶりのお野菜が取れたから、お漬物が沢山あるのよ。良かったら持って帰ってくださいな」
「良いんですか?女将さんが喜ぶと思います」
総司とのぶの会話が弾む傍らで、土方は仏頂面で食事を続けていた。稽古に来た時よりも明らかに不機嫌な様子だったので義理の兄である彦五郎から何かお叱りでも受けたのだろうか、と総司は不思議に思った。
二人の食事が終わる頃、
「じゃあお持たせを準備してくるわね」
とのぶは上機嫌で台所へ向かっていく。
二人きりになって、しーんとした沈黙が続いた。
「…歳三さん、何かあったんですか?」
「別に…」
予想通りのぶっきら棒な返答に、総司は食い下がる。
「別にっていう顔、してないですよ」
「…うるせえ」
土方はまるで拗ねた子供のように話を続けようとしない。総司は茶化す様に
「もしかして彦五郎さんに怒られちゃったんですか?だとしたら何をしでかしたんです?」
と訊ねたが、土方がぎょろりと睨んできて
「あれこれ詮索するな、鬱陶しい」
と語気を荒くした。まさかそんなに怒られると思わず、総司は「すみません」とすぐに謝ったが、気まずい空気はさらに加速してしまった。
(一体、何なんだろう…)
彦五郎やのぶには特に変わった様子はなかったけれど。
しかし総司にはそれ以上訊ねることはできず、仕方なく黙っておくしかなかった。


試衛館に戻る帰り支度をして、二人は玄関へ向かった。のぶが見送りに来て「荷物になりますけど」と言いつつ漬物が入ったお重を渡してくれた。
「有難く、いただきます」
「ふでさんにもよろしく伝えて頂戴ね」
「はい」
そしてのぶは、ちらりと土方に目をやった。
「歳三。旦那様のお話されたこと。ちゃんと真剣に考えてお返事なさい。お世話になっている方の娘さんなのだから」
「…わかってる」
土方はそう言うと、挨拶もなく背中を向けて門を出ていく。総司は呆然としてしまった。のぶの言いようで何となく土方がどうして不機嫌なのか、察しがついてしまったからだ。
(もしかして…)
「…歳三、何も言っていなかった?」
「もしかして…お見合い、ですか?」
のぶは「やっぱりね」と苦笑しつつ頷いた。
「剣術の腕はまだまだでも、あの子もそういう年でしょう。いい加減身を固めなさいって口が酸っぱくなるほど言ってきたのだけど、今まで全然その気が無くて。旦那様も心配されてね、良い娘さんを探してくださっているの」
「へえ…」
総司にはまるで現実味のない話だった。土方が結婚して、奥方がいて、家族を持つ?つまり試衛館からいなくなるということだ。
(変な感じ…)
想像するだけで心の奥底に靄がかかる。
土方だっていずれは誰かと結婚する。
それはわかっていて、関係ないはずなのに、と総司は自分で自分がおかしいと感じた。
そんな総司の心中を察するわけでもなく、のぶはため息交じりに続けた。
「何度も断ってきたのだけど、今回はそうもいかないのよ。お世話になっている商家の娘さんで、可愛らしくて器量も良くて」
「そう…ですか」
「総司さんからも言ってくださらないかしら。取りあえず、一度だけでお会いするようにって」
胸の奥がチクチクと痛んだ。その痛みの正体は良くわからない。けれど
「わかりました」
と頷いて、土方の分まで挨拶をして、彼を追った。佐藤家の立派な門を出て、土方の背中を探す。
何故だろう。何故だか、置いて行かれるような気がして、懸命に駆けた。


−4−


すぐに追いつくだろうと思っていたのに、思っていた以上に離れてしまっていたらしい。総司の息が切れてきたところでようやく土方の背中に追い付くことができた。 「…なんだよ、おせぇな」
「と、歳三さんが、早いんじゃないですか!」
畦道を悠々と歩いていた土方は、不意に総司の後方を指さした。総司はその指の先を見る。
「あっちに、近道があるんだよ。残念ながらお前は遠回りしてきたってことだ」
「も…なんですか、それ…」
息を荒げた総司はがっくりと肩を落とす。確かに、この辺りは土方の幼い頃のテリトリーではあるのだから、そういう道を知っていてもおかしくはないのだが、こっちは重箱を抱えて走ってきたというのに…何だか馬鹿みたいだ。
総司が脱力していると、すると土方が、ふっと少し笑って
「仕方ねえな」
と、のぶから預けられた重箱を取り上げた。どうやら代わりにもってくれるらしい。
そしてまた二人で試衛館に向けて歩き出した。総司は息を整えつつ、土方の隣を歩く。佐藤の家にいた時よりも幾分か表情が和らいでいたので、不機嫌は治ったようだと内心安堵した。
(…こっちも、治ったみたい)
総司は土方の不機嫌と一緒に、自分の胸の痛みも治まっていることに気が付いた。今まで味わったことの無い、チクチクと針で刺されるような痛みだった。その正体は、結局わからず仕舞いだ。
「…おい」
「はい?」
「のぶ姉さんが言っていた話、かっちゃんには伝えるなよ」
土方はぶっきらぼうにそう言った。既に近藤勇と改名している幼馴染を、土方は相変わらずこの名前で呼ぶ。
「…でも、歳三さん、お見合いはどうするんですか?」
「どうにかする」
「どうにかって…」
「いいから、お前は黙ってろって。かっちゃんに伝わると話が無駄に大きくなるんだよ」
土方は迷惑そうにそういうが、誰よりも心配を掛けたくない相手が近藤なのだと総司は知っている。
「…歳三さんは、嫁を貰う気はないんですか?」
恐る恐る、総司は訊ねた。
つねが嫁いできてから、近藤はとても幸せそうにしていた。最初は、家の為の結婚だと言っていたものの、『旦那様』と慕われて身の回りの世話をされれば、情が沸くのは当たり前だ。仲睦まじい二人を間近で見ていれば『夫婦はいいなあ』と総司でさえも思わないでもない。
しかし土方は心底面倒そうに
「いまはいい」
と答えた。
(いまは?)
何故だか言葉に引っ掛かりを覚えて、総司は食い下がって訊ねる。
「いまはって?いつなら良いんですか?いつ?」
のぶの様子だと縁談を急いでいるようだし、土方もいつまでも独り身のまま試衛館に居るわけにはいかないだろう。末っ子だから家の心配はしなくていいと言うけれど、いつかは身を立てて、家族を持って。
じゃあ、土方はいつ嫁を貰って、試衛館からいなくなってしまうのだろう――?
そんな不安に駆られた総司だが、土方は眉間に皺を寄せて不審がって、総司を見た。
「なんだってそんなことを聞くんだよ。そんなの知るかよ、ずっと先の話だ」
土方が怪しむのは無理はない。総司だって、なんでこんなに焦燥感に駆られるのかわからないのだ。
(何で…)
土方が居なくなる方が嫌だなんて思うのだろう。
いままで考えたことがなかったから?
いつまでも一緒にいられると思っていたから?
考えがまとまらない総司は
「…そうですか」
と力なく返事をするしかなかった。


-5-


それから数日。土方の見合いについては特に何もなく、日々は過ぎていった。
近藤や他の食客たちが見合いのことについて口に出したりすることがないので、どうやら話は伝わっていないらしい。
土方はいつも通りだった。朝は相変わらず寝坊をして、稽古だけは真面目で、終わると原田たちと猥談に加わって。あまりにもいつも通り過ぎて、総司が拍子抜けしてしまうほどだ。
(お見合いは…どうにかするって言っていたけれど)
どうなったのか、聞いてみたい気がするけれど、その一方で聞いたらまた土方が不機嫌になって怒るだろうし、総司もあの時の胸の痛みに再び襲われるのかと思うと気が重い。
(…何か適当に言い訳をつけて断ったのだろう)
そう思って、心の片隅に追いやりたいのに…何故か、それができなかった。
「総司さん」
「はっ…はい?」
突然、名前を呼ばれて、自分がぼんやりしていたことに気が付いた。手元の包丁を足元に落とし、咄嗟のところでかわす。
声の主は、近藤の妻のつねだった。
「お…驚かせてしまってごめんなさい。ぼうっとなさっているからお身体の具合でも悪いのかと思って…」
「い、いえ、ごめんなさい。大丈夫です」
そういえば自分は朝餉用のきゅうりの浅漬けを切り分けているところだったのだ…と総司は思い出した。足元に転がった包丁を拾い、軽くすすぐ。
「包丁を持っているときは、ぼうっとしてはなりませんよ」
台所を預かるふでに叱られて、「申し訳ありません」と、総司は平謝りした。いくら道場で腕が良くても、台所ではいつだって女が強いのだ。
周囲を見ると、総司がぼんやりしている間に、朝餉の支度はあらかた終わってしまったらしい。急いで切り分けていると、隣につねが立って手伝ってくれた。
「何か悩み事…ですか?」
嫁いできたばかりということもあり、食客たちにはまだ距離のあるつねが、珍しく総司に話しかけてきた。
「…悩み、ではないと思うんです。自分のことじゃないので…」
「では、土方先生のこと?」
ガンッと今度は包丁が滑った。
「え…っ、えぇ、なんで?」
「お顔に書いてありますもの」
ふふっと上品に笑うつねは、動揺することなくきゅうりを切りつづける。女の勘…というものかもしれない
けれど、総司は(敵わないなあ)と内心苦笑した。
ふでが台所を出て配膳に向かうのを見計らって、総司は小声でつねに打ち明けた。
「皆には内緒…なんですけど。歳三さん、お見合いをするみたいで」
「まあ」
「でも本人は嫌がって、どうにかして断るなんて言っていたんですけど…それからは話を聞いていなくて」
「そうですか」
総司が「内緒ですよ」と念押すとつねは微笑んで「ええ」と頷いた。事を荒立てたりしないつねのことだから、黙っていてくれるはずだ。
「…もし、縁談がまとまったら歳三さんは試衛館にはいられないですよね。それは何だか…」
ちくり、とあの時と同じ痛みが総司の胸に走った。
(何かの病気かなあ…)
そんなことを危惧しつつ浅漬けを皿に盛った。
「寂しい、ですわね」
「…寂しい」
「ええ。総司さんはとても、寂しそうな顔をしていますもの」
つねに指摘されて、すとんと何かが落ちた。「寂しい」それは紛れもなくここにある感情に間違いない。
(でも…それだけじゃない)
「あの…変なこと、聞いてもいいですか?」
「はい?」
「おつねさんは…どうして近藤先生の奥方に?」
つねが将軍家の祐筆を勤めるような家柄の娘だということは、近藤から聞いていた。時代が時代なら試衛館には嫁ぐような身分ではない。そういう意味ではつねは決して、率先して試衛館に嫁いだわけではないだろう。
するとつねは穏やかに微笑んだ。
「縁…としか言いようがありません」
「縁?」
つねは頷いた。
「私は…家柄に見合わず、不器用で、不調法で…この年になるまで、縁に恵まれませんでした。このまま独り身かと覚悟していた時に、こちらとの話をいただいたのです」
切り分けた浅漬けを盆に乗せつつ、つねは続けた。
「旦那様は私を見て、一片の曇りもない笑顔で笑ってくださった。私はそれだけで、この方に嫁ごうと決めたのです。きっとこれまでの縁談はすべてこの方に出会うためのものだったのだと…根拠もなく、確信しました」
「…一目ぼれって、ことですか?」
総司が率直に訊ねると、それまで淡々と語っていたつねの頬が、少し赤らんだ。
「そうですね。そうだと思います」
するとつねは総司に浅漬けの乗った盆を渡した。
「…おしゃべりが過ぎました。みなさんお腹を空かせて待っていらっしゃいます」
「…はい」
総司は盆を受け取って頷いた。
ちくりとした痛みが、何故だろう、その名前を知って痛みを増した気がした。


−6−


つねから受け取った盆を持って、朝餉を待つ食客たちの集う部屋に向かった。
ちくちくとした痛みがまだ胸の中に残っていたが、部屋の前で深呼吸をして
「お待たせしました」
と部屋に入った。すると、そこにはいつもの食客たちは揃っていても、土方の姿はない。しかしそれはいつものことだ。
「起こしに行ってきます」
盆を置くなり、腰を浮かせた総司だが、
「ああ、その必要はないそうだよ」
と山南に止められた。
「え?」
「朝早くから、佐藤道場の方に行ったそうだよ。急用とかで…」
「そうなんですか?」
驚く総司の横で、原田と永倉が「ははっ」と笑った。
「土方さんも早起きしようと思えばできるってことだな。よかったな、総司」
「今度からは一人で起きてもらおう」
「え…ええ、そうですね…」
浮かせた腰を落として、いつもの席で朝餉の箸を取る。どうやらまだ見合いの話は食客たちには伝わっていないらしい。「いただきます」と挨拶して、皆が雑談に興じつつ朝餉を食べ始める。
そんななか総司は何かが物足りない気持ちをありありと実感していた。
いつもの習慣がないせいなのか、それともいつもいるべき人がいないせいなのか…もしくは両方なのか。
(よく…わからない)
だが想像ばかりは膨らんだ。
土方が佐藤道場に行ったのなら、もしかしたら先日の見合いの話に進展があったのかもしれない。弟である土方のことを良く知っているのぶのことだから、土壇場で土方が逃げないように、急用だと呼び出して見合いをさせるような…そんな策を練ったことも考える。
様々な想像が脳裏を過ったが、そのどの想像に対しても、総司は
(何だか…嫌だな)
という感想を抱いてしまった。近藤がつねと結婚するときは、心から祝福し家族が増えることを喜ぶことができたというのに。
土方が誰かを娶って、家を構えて、家庭を持って…そんな風に想像することができなかったし、それを「嫌だ」と思ってしまう。
(どうしたんだろう…)
「沖田さん」
声を掛けられて、はっと我に返った。声の主は隣に座っていた藤堂だった。
「どうかしたんですか?」
「どうかって…どうもしてませんけど…」
悟られたくなくて、強がって返答したところで気が付いた。まだ半分も食べきっていない総司だが、他の食客たちは既に食事を終えていたのだ。
「あ…あはは。ちょっとぼーっとしちゃいました」
「何か悩みごとでも?」
意外に目敏い藤堂に指摘されたが、総司は笑って返した。
「悩みごとなんでありませんよ。ただ歳三さんを起こしに行かなかったから、調子が狂っちゃっただけです」
(そうだ…たぶん、そうに違いない)
藤堂も「そうですか」と納得してくれたし、他の食客たちもいつものように楽しい食事を終えた。
だから間違いないのだと、総司は急いで朝餉を平らげたのだった。


それからはいつも通り、門下生たちを集めた稽古をして、家の用事を手伝ったり、掃除をしたりして一日が過ぎた。
近藤に詳しく聞くと
「今日中には帰ってくるということだったよ」
ということだったので、内心安堵した。でももしかしたら帰ってきた途端に結婚の報告があるのかもしれないし、試衛館を出ていく話を切り出されるのかもしれない。そんなざわざわとした気持ちを一日抱えているだけで、何だか疲れてしまった。
(こんなに疲れたのは初めてかもしれない…)
さっぱりしようと思い、湯に入った。しかし一人きりになっても考えてしまうのは土方のことばかりだ。
頭まで湯につかり目を閉じる。
認めたくない。でも、認めるしかないのかもしれない。
近藤が娶るときに何も思わなかったのに、土方の時は「嫌だ」と思うなんて…こんなあからさまな感情を、知らないふりはできない。
(好き…なのかな)
自分だけで独占したいと、そんな風に望んでしまうほど。
次第に息苦しくなって、総司は湯から飛び出た。
「は…っはぁ…はぁ…」
生まれてきて初めての感情が、こんなに苦しいなんて、知らなかった。
それからすぐに風呂を出て、身体を拭い、寝間着に着替えて総司は土方が普段使っている客間の前にやってきた。そしてまだ帰ってきていないことを確認した。
(今晩中に帰ってくるって…言ったのに)
早く帰ってきて、安堵したいような、でも何も聞きたくないような…気持ちが鬩ぎあい、混乱する。
総司は障子を開き、そっと中に入った。
そこには折りたたまれただけの布団と、脱ぎっぱなしの着物があった。どうやら相当慌てて出て行ったようだ。
「歳三さんらしいや」
寝起きで不機嫌な土方が出ていく様子が、目に浮かぶようだ。
せめて片付けておこうかと、着物の襟を取った。すると何故だかそこに在るはずのない土方の体温と匂いを感じた。
「…歳三さん」
呼んでもそこにはいないのに。いないのに、胸を締め付けるなんて。そんなあなたは
「やっぱり…我儘だ」
総司はその場に膝をついた。そして空っぽの着物を抱きしめて、布団の上に身体を落とした。布団にも土方に香りが残っていて全身が土方に包まれるような錯覚をした。
「気持ちいい…」
総司は目を閉じた。


−7−


試衛館への帰り道。仄かな灯りを頼りに歩く中、つま先にあたった小石を、土方は思いっきり蹴り上げた。
「くそ…」
今朝早く、姉ののぶから手紙が届き、そこにはのぶの旦那である彦五郎の調子が悪いのですぐに帰ってこい…と書いてあった。昔から彦五郎には可愛がってもらっていた土方としては駆けつけないわけにはいかず、取るものも取りあえず試衛館から日野へ駆けつけたものの、当の彦五郎はケロッとしていて特に大病を患っているような雰囲気はない。姉を問いただすと
「こうでもしないと来ないでしょう」
と、すっかり騙されたのだと種明かしをされた。
そしてやはり佐藤家の客間には既に見合いの席が設けられていた。以前話のあった商家の娘が両親とともに振袖を着飾って、土方のことを待っていたのだ。
土方は逃げ出そうとしたが、姉に叱られ、彦五郎に慰められ…そして世話になっている家の娘だと言われれば、どうしようもなかった。
その場で紋付き袴に着替えさせられ、見合いをすることになってしまったのだ。
商家の娘は、丸顔のまだ少女のあどけなさが残る容貌だった。歳を聞けば十四だそうで土方との歳の差は十以上あった。見目の整った可愛らしい女だとは思ったが、土方の琴線に触れることはなかった。十も違えば、相手は子供のようだし、恥ずかしいのか、顔を赤らめながらたどたどしく言葉を紡ぐ様子は、どう考えても妻として迎えるには早いように思ったのだ。そのせいか、あちらも話を急ぐ必要はなかったようで、また二人でどこかへ出掛けてほしいと頼まれた。土方は内心、二度とそんな機会を持つまい、と思っていたのだが、姉が「勿論です」と約束を取り付けてしまったせいで、少女は嬉しそうに顔を真っ赤に染めて
「歳三さま、今度、お芝居に連れて行ってくださいませ」
などと喜ばせてしまった。
ひとまず、少女…青葉(あおば)と両親たちを見送ってさっさと正装を解いた。
「いくらなんでもあんなガキと結婚させる気かよ…」
ブツブツと土方が文句を言っていると、のぶは大きなため息をついた。
「いつまでも試衛館にお世話になりっぱなしではいけないでしょう。勇さんもお嫁様をいただいたのだから、貴方だってそういう年なのよ。いい加減、ふらふらしていないでお嫁様をいただいて、家族を持ちなさい」
実際に、結婚をするにも年の時期は過ぎているし、吉原通いは相変わらず続けている。すべてお見通しの姉の正論には、ぐうの音も出なかった。
しかし姉はまだまだ文句を言い足りないようで、お小言は長々と続いた。
なかなか家に戻らないだの、吉原での悪評だの…姉は何でも知っていて、結局、試衛館に戻るのはこんな夜中になってしまったのだ。試衛館に戻るまでの道のりで、最初はイライラとしていたが、だんだんとその怒りは冷めて、姉の小言が脳裏にぽつぽつと浮かんだ。
「…ふらふら…か」
自分ではふらふらしている自覚はなかった。寄り道はいくつもしたけれど、結局は試衛館に弟子入りし剣の道を歩むことに決めた。
自分なりに寄り道をやめて、まっすぐに道を歩くつもりだった。
だからもう家に固執するつもりはないし、本音では姉は自分のことを見捨ててほしいとさえ思う。けれど家族という繋がりは切っても切れず、そして姉を安心させてやりたいという気持ちが無いことが無い…というのが厄介だった。
「見合いして…娶って…それで、何だっていうんだ…」
青葉の両親は、土方に婿養子に来てほしいのだと言っていた。自分たちには男児が無く、娘も一人しかいない。土方に店を継いで貰いたい…そこまで、今後の展望を語っていた。
彼らが望む安寧という未来が、土方にとっては絵空事だ。自分が剣を捨てて家におさまるなど…あり得ない。
なのに周囲ばかりがそんな期待をして、話ばかりが進んで行ってしまう。それが一番、土方を苛立たせた。
(自分で…決めさせろよ)
「くそ…」
土方はもう一度舌打ちした。そして早く、試衛館に帰りたいと思った。


試衛館にたどり着く頃には既に部屋の灯りがすべて落とされていて、勇や食客たちは眠っているようだった。
土方はできるだけ足音を立てずに、普段自分が部屋として使っている客間へと向かった。原田の大きな鼾や、誰かの寝言が聞こえてきて安堵した気持ちになるのは初めてだ。
客間の前まで来て、土方ふと気が付いた。誰もいないはずなのに、中からは誰かの気配がする。土方がゆっくりと障子をあけると、健やかな寝息を立てる総司が、まるで倒れこむように寝ていた。
「何してんだ…」
土方は部屋に細い灯りをともす。すると総司がどうやら自分の寝間着を抱きしめて寝ているのだということに気が付いた。
まるで子供のように丸くなって眠る姿に、土方は自然と頬が緩んだ。
「馬鹿…」
土方は苦笑して、ひとまず総司を起こさないように、布団を敷いた。どうやら深く眠っているようで起きる様子はなく、そして抱きしめた寝間着を離すこともしない。
土方は総司の身体を抱き起して、そろそろと起こさないように横にさせた。
そして自分も同じ布団に収まる。
「狭ぇ…」
布団は男二人が寝るには少し狭い。しかしこの窮屈な場所が、自分の居場所なのだと思うと、今日の一日を忘れるくらい穏やかな気持ちになったのだ。


−8−


温かいぬくもりと、優しい匂いがする。重い瞼をゆっくりとあけると、そこにはいつもとは違う景色があった。
(あれ…?)
月明かりで照らされたここは、自分の部屋ではない、と気が付いて総司は一気に眠気が吹き飛んだ。
上半身を起こして周囲を見渡すと覚えのある部屋ではあった。ここは客間であり、土方の部屋だ。
(そう言えば…)
土方の寝巻を眠っている間も握りしめたままだった。皴になってしまったな…と思っていると、腰に違和感を持った。
「え…?」
総司の隣では土方が寝ていた。腰には土方の腕が絡まっていて、抱き枕のようにされていたのだと分かる。分かった途端、総司は
「………ッ!」
と、驚きやら恥ずかしいやら照れくさいやら…いろんな感情が一気に高ぶって、心臓が爆発しそうになった。叫びだしそうになったが、どうにか堪えた。まだ夜中で、皆が眠りについていたからだ。
そして隣で眠る土方も、総司が起きたところですやすやと寝息を立てたままだった。
どくん、どくん、どくん…波打つ心臓に、収まれ収まれと何度も言い聞かせるが、言うことを聞いてくれない。
そして一方で、
(帰ってきた…)
と、安堵する気持ちもあった。夜遊びで遅く帰ってくるなんていつものことで、いつもは帰って来ないからと言って心配する様なことはなかったのに。
穏やかに眠る土方の顔をまじまじと見る。起きていると大概不機嫌な顔が多いけれど、寝ているときはその整った表情が和らいでいて、まるで人が違う。小さい頃は女の子に間違われたと本人は苦々しく言っていたけれど、その面影が少しだけ残っているように思えた。
総司は心臓の高鳴りが収まったのを確認して、もう一度寝床に戻った。どうやら土方に背中から抱きつかれていたようで背中を向けると、すっぽりと元通りに収まった。
(あったかいなあ…)
誰かと一緒に眠るのは、随分久しぶりだ。試衛館に来てからは一人で寝ていたので、おそらくは姉と一緒に寝ていた幼少期の頃以来だろう。
少し狭い布団で、一枚の掛布団を分け合って、お互いの寝息が聞こえる場所にいる…それがこんなにも嬉しいなんて。
総司は躊躇いつつも身体を反転させた。正面に土方の寝顔があって、少しどきりとしたけれど、その胸に顔を埋めた。
眠っているふりをする。土方の心臓の音が聞こえる。自分のそれよりもゆっくりな音が、鼓膜で跳ねる。
(ここが…僕だけの場所なら良いのに)
だから、どこにもいかないで。
ずっと試衛館に、僕の傍に、いてくれればいいのに。
朝、不機嫌なあなたを起こすことなんて全然、大変だと思ったことはない。これからだって、毎日起こしてあげるから。
総司は目を閉じた。心地よりリズムが、夢へと誘う。
すると土方の心臓のリズムに合わせて、赤子の頃に聞いた子守唄が、聞こえた気がした。



「沖田さんが寝坊なんて珍しいですよね」
藤堂が台所を手伝いながら、つねに話しかけた。
朝餉の時間は迫り、食客たちは次々と居間に集まりつつあったのだが、いつもは一番に起きて手伝う総司がまだ寝ているようだったので、食客の中で一番若輩である藤堂が、手伝いを申し出たのだ。
つねは微笑みつつ
「きっと良く眠っていらっしゃるのでしょう」
と人数分に切り分けた漬物を、藤堂へと渡した。そして
「でもそろそろ朝餉のお時間ですから、藤堂さん、起こしてきてくださいませんか?」
と頼んだ。藤堂も「わかりました」と答えて、盆を抱えて台所を出て行く。居間には土方、総司以外の食客たちが集まっていた。
「総司の奴、まだ起きてねえのか?」
原田があくびをしつつ訊ねてきたので、藤堂が「ええ」と頷く。すると山南が不思議そうな顔をして「珍しいですね」と永倉に聞くと彼も頷いた。すると原田が「よし」と膝に手を置いて
「皆で起こしに行こうぜ」
とにやりと笑いつつ誘う。いつもは食客の誰よりも早く起きる総司をからかってやろうと言う算段らしい。
「よし、乗った」
「私も行きます」
永倉と藤堂はすぐに手を挙げて乗り、一方で山南は「私は遠慮します」と苦笑したのだが
「山南さんも行こうぜ」
原田が強引に山南の手を引いて、結局は食客全員で総司を起こしに行くことになった。
居間からすぐ傍の総司の部屋に向かい、原田が遠慮なく障子をあける。陽の光でぱっと部屋に光が差しこんだのだが、そこには総司の姿もなく、布団を敷いている様子もない。
「あれ?」
「いませんねえ」
期待外れに驚く永倉と藤堂。その傍で山南が冷静に
「布団を敷いていないということは厠ということもないでしょうが…」
と腕を組み考える。しかし原田が「じゃあ土方さんの所だろ」と根拠もなく土方の使う客間へと向かった。
「土方さん、寝起き悪いんだろう?」
「不機嫌な土方さん、俺は無理」
「私も嫌ですよー…」
口々に言いつつも客間の前で、原田を意を決して障子をすぱん!とあけた。
「土方さんっ!朝だぜーっ!」
無遠慮でしかし勇気ある原田が叫ぶ。眩しい光に照らされた部屋には布団を被る土方の姿があった。
しかし居合わせた四人の食客たちは、その光景に言葉を失った。
「……あ…あれ?」
そこにはぐっすりと眠る土方と、そしてその腕の中で健やかに寝息を立てる総司の姿があった。
二人はまるでお互いを抱きしめあう様にして眠っていたのだった。


















アオハル完結いたしました。
最後までありがとうございました。
久々に土沖らしいお話が書けて、何だか楽しかったです。(笑)皆さまにも楽しんでいただけたようで良かったです。
拍手ありがとうございました!


榊マユリ / 2014年9月15日
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