わらべうた 葡萄






秋めいてきた試衛館。
「歳三さん、見てください」
はしゃいだ宗次郎が満面の笑みで土方の前に差し出したのはかごいっぱいの葡萄だった。
「…」
「大先生の甲州にいらっしゃるご親戚が送ってくださったそうなんです。お裾分けしていただいたので食べましょう」
「俺はいらん」
土方がきっぱりと断ってそっぽを向いたので宗次郎は拍子抜けした。
「えぇ?どうしてですか?」
「別にいいだろう。いらん」
「でも縁起の良い果物なんですよね。えぇと…葡萄とリス…『武道に立する』って」
「かっちゃんに教えてもらったんだろう」
辿々しい口ぶりを土方が指摘すると、宗次郎は「はい」と舌を出して笑った。そして土方の隣に腰を下ろし、一つ一つ皮をむき始める。
秋の木枯らしが時々試衛館の庭を通り過ぎていく。賑やかすぎず、寂しすぎず、近藤の義母であるふでによって手入れされた庭は広くはないが落ち着く場所だ。 その縁側で寛ぐことができるのはあと数日だろうか。
「でもおかしいなあ」
そんな情緒溢れる庭など見向きもせず宗次郎は一心不乱に葡萄の皮を剥く。剥いてからまとめて食べるのか、さらにはいくつか白い果実となった葡萄が並んでいた。
「何がおかしいんだよ」
「近藤先生は歳三さんは葡萄が好きだって言っていましたから、てっきり喜ぶかと思ったんですけど」
「別に嫌いってわけじゃない」
土方は皿の葡萄を摘み、そのまま口に放り込んだ。
「ああ!食べた!」
「そうやってチマチマ剥くのが嫌いなんだ。面倒だし手が汚れる」
「もう!」
宗次郎の責められても動じることなく、土方は皿の葡萄をあっという間に平らげてしまう。宗次郎は顔を真っ赤にして怒ったが、全く取り合わない土方に最後は呆れて
「もう歳三さんには葡萄はあげません」
とすねてしまったのだった。







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