わらべうた 131.5 ぬくもり


遠くで除夜の鐘が聞こえた気がして、俺は目を覚ました。辺りは真っ暗でどうやら俺の空耳でもないようだ。
俺が枕にしていた総司の膝はまだそこにある。眠気眼を擦って見ると、総司はどうやら座ったまま寝たようだ。


よくそんな恰好で、器用に眠れるものだ、と俺は半ば感心しつつ総司をしばらく眺めていた。
俺が寝てしまう前と同じ格好で、背を押し入れの障子に預ける形で総司は寝息を立てていた。
特に苦しそうな表情でもないのでどんな姿勢でも眠れるのだろう。同じ布団、枕じゃないと寝つきの悪い俺とは大違いだ。
しかしそのままでは寝た気はせまい、と俺は総司の両肩を持ち寝転がせてやる。
総司は起きる様子もなく俺に従ってそのまま横になった。
本当なら、景色の良いところへ行って初日の出を拝んで新年を祝うつもりだったのだが。
「…まあ、いいか」
すやすやと心地よさそうに眠る総司を起こすのもかわいそうだ。
俺は散らかしっぱなしの文机を退けて、総司の隣に横になった。
部屋には月明かりだけ。聞こえるのは総司の寝息だけ。しんと静まった屯所はまるで二人きりの世界になってしまったかのようだ。
俺は総司の寝顔を見た。幸せそうに穏やかに眠る姿を見ると心底安心できる。
まさか年越しを京で迎えるとは思っていなかった。長くて半年と思われた上洛がこんなに長引くなんて。
でも、こうして隣に総司がいるのは試衛館と変わらない。
それはいつもの馴染みの光景ではあるけれど、きっとかけがえのない時間になっていくはずだ。
俺は腕を総司の枕の代わりにしてやった。胸元に収まる総司を軽く抱きしめると、だんだんと暖かくなってくる。
「…んぅ…」
流石に起きるか、と俺が思っていると
「…歳三さん…」
と名前を呼ばれた。
「ん?」
下の名前で呼ばれるのは久しぶりだ。それだけ気が緩んでいるのか、と思うとそれはそれで嬉しい気がする。
しかし、総司の目は閉じたままだ。どうやら寝言のようだ。
「お前…寝言多いよな」
前にもこんなことがあったような…と俺が考えていると
「餅は…一人、一つまで……なんですか、ら…」
と、やや顔を顰めて呟いた。
その台詞はよく試衛館で総司が言っていた。貧乏所帯だった試衛館では正月の餅も一人一つまで。しかし、雑煮にしたり焼いたり…と
食客の面々は遠慮なく食い荒らしたものだ。
それを決まって怒るのが総司だった。
「それが初夢かよ…」
俺は苦笑した。総司らしいと言えば、総司らしい。
そして総司はくるりと俺に背を向けて(腕枕は引き続き継続だ)そっぽを向いてしまった。
俺はそんな総司を背中から抱きしめる。
「…餅は、もう一人一つじゃなくていいんだぞ」
耳元で俺が囁いてやる。もちろん返事なんか期待していない。だが、そういうと何だか会話をしているようで俺は楽しい。
「ん…焼き餅なんて、焼いてません…」
俺の言葉が聞こえたのか、聞こえてないのか、総司はそんなことを呟いた。
普段から寝言が多いが、俺はそれを総司には教えていない。
「…いい加減、焼けよな」
こんな風な、時間が、来年もまた過ごしたいと思うから。

そのまま俺と総司は暖かさを共有して、新年を迎えた。
いつもの布団よりも深く眠れた気がするのは、この抱き枕のお蔭なのだろうか。





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