わらべうた 155.5 朝暘



土方さんが、何を考えて、何を苦しんで、何を思っているのか、僕にはわからない。
彼は僕のことを何でも知っていて、見透かしていて、だからこそ先回りして守ってくれてばかりなのに、
僕は何もわからない。
あなたのことを、知りたいのに。


わらべうた 155.5 朝陽



土方さんが僕に背を向けてどれくらい時が経つだろう。蝋燭の光が頼りなく照らすだけの部屋に、僕と土方さんは二人きりでいた。
言葉を交わすこともなく、ただそこにいた。
数刻前。人が慌ただしく動く気配がして、僕は目を覚ました。門番に訊ねると島田さんがやってきたと言うので僕は土方さんの部屋に向かった。
何か起こったのではないかと危惧したからだ。
しかし僕が部屋にやってくると、土方さんは冷たく僕をあしらった。「なんで来たんだ」と彼は突き放すように言ったのだ。
けれども彼の目はそうはいっていなかった。何かを怖がるように、何かにおびえるように…歪んで見えた。
「抱かせろ」
と彼が言った時に、受け入れるべきだったのかもしれない。
そうすればこんな風に頑なに口を閉じたまま、殻に閉じこもったりしないで、何もかもを曝け出してくれたのかもしれない。
僕は何かに気が付くことができたのかもしれない。
(でも…それは、できない…)
彼にそうされることが怖いんじゃない。芹沢先生としたことを、土方さんとできないわけじゃない。
きっとそうしたとしても、彼は何も教えてくれないのだろうと分かっていたからだ。彼は誰かを頼ったりしない。
だったらその行為は、彼にとって弱さを僕の目の前に晒してしまうだけのこと。そうすればきっと彼は後悔する。
(…僕は、土方さんとどうなりたいんだろう…)
一番近くにいたいと思う。それは誰よりも近くに。
けれど、彼のことを分かってあげることができない。同じ痛みを共有することを、同じ苦しみを共有することを、彼は許してくれない。
だけど、じゃあ僕は守られるだけの存在でいいのだろうか。
(土方さんは…過保護だ)
それは僕に対してだけじゃない。
近藤先生へも
試衛館の皆へも
そして隊士へも、過保護すぎる。
規則を強いて、縛り付けているけれど、それは組織にとって当然必要なことで、土方さんじゃなくてもだれかがやらなければならないことなのに。
けれどそれを自分のせいにして、鬼だと蔑まれても平気な顔して、全部抱えて、全部背負って。
こんなに、寂しそうな背中をするくせに
何も言わないで。
(もし…)
もしもう一度、彼が僕を求めたとしたら、僕はもう拒まない。
それで彼が安堵するというのなら、僕はそれを受け入れよう。
(…でもきっと、土方さんはそうしないだろうけど)
強がりで、意地っ張りで、決して弱音なんて吐かない土方さんだから。
きっと「抱かせろ」なんてもう言わないだろう。

僕は障子越しに、光差す朝陽を見た。
土方さんの目にその光が差し込んでいるのかは、僕にはわからない。
けれどその光は僕らを照らす。いつもと変わらない一日が始まるのだと、告げる。

どんな暗闇でも光がさすように
土方さんの心にも光がさせばいい。
それが僕だとしたら
嬉しいけれど。


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