わらべうた 565.5 木漏れ日に




姉を見送った二人はそのまま別宅へと戻った。
「あ、おみねさんが来ていたのかな」
部屋は世話役のみねによっていつも小綺麗に保たれているが、特に台所が温かい。先ほどまで訪れていたのかもしれない。
二人は座敷に上がって一息ついた。
「近藤先生のお土産も渡せたし、無事に見送れたので安心しました」
「…まあ、心残りなく帰っていったのは良かったな」
宿にみつがいないと知った時は、このまましばらくの別れになってしまうのではないかと虚しさがこみ上げたが、結果として姉の本音を聞き出すことができ、キンのこともどうにかなりそうなので安堵した。
「今回のことで、お前もちゃんとおみつさんに手紙を書く気になっただろう?」
「はい。これからはちゃんとしますよ」
「本当だろうな?」
「本当です」
これまで幾度となく近藤や土方から苦言を呈されてきたが、今度こそは姉と頻繁に連絡を取り合わなければと思う。姉は気丈な性格だが、心の奥底では『姉』として以上に『親代わり』として心配してくれているのだと実感したのだ。土方は「疲れた」と言ってそのまま横になった。みつを探すため奔走し、宿から小者を連れてくるために往復したのだから疲れているに違いない。
「…ありがとうございます」
「何が?」
「いえ…土方さんって意外に私のことをよくわかっているんだなと思ったんです」
姉に「仕送りには手を付けない」ときっぱり断られたとき、総司は姉の心遣いを感じると同時に寂しさと虚しさに苛まれ上手く気持ちを言葉にできなかった。それを土方が代弁してくれたおかげで姉と心を通い合わせることができたのだ。土方は「当たり前だろう」と苦笑した。
「何年お前と一緒にいると思っているんだ。俺からすればお前たち姉弟ほど不器用なものはない。
 おみつさんだって仕送りを律儀に預かってるだけだなんて、思慮深いにもほどがある」
「ああ、あれには驚きましたねぇ…」
総司がハハハと笑っていると、開け放っていた障子の外からやや冷たい風が流れ込んできた。
季節は移ろい変化を続ける。
すると風で靡いた髪に土方の指先が触れた。何気ない仕草に普段は気づかない穏やかな時の流れを感じる。
(僕はこのままでいたい)
いつまで、どこまで、そうしていられるのかはわからない。
急に明日になったら戦が起こって離れ離れになってしまうこともあるだろう。
けれどせめてその時までは。
「…私だって、歳三さんが何を考えているのか、わかりますよ」
「ふうん…言ってみろよ」







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