証し −わらべうた305.5−





総司は一つお願いをした。
「…灯り、消してください」
ただでさえ慣れていない行為は恥ずかしくて仕方ないと言うのに、それを隅々まで土方に見られていると思うと、居たたまれないのだ。
土方は少し苦笑したものの
「わかったよ」
というとおりに灯りを消してくれた。そうは言っても、今夜は月明かりが眩しいくらいなので、お互いの表情くらいは見えるのだが。
衣擦れの音が部屋に響く。春はすでに近いとは言ってもまだ夜は肌寒い。
彼の手のひらが髪を撫で、滑らせるように輪郭に触れて、口づける。啄むようなそれから、だんだんと口腔を犯すような激しいものに変わり、自然と息が上がっていく。
薄暗くて視界が遮られる分、何故だか緊張は増した。
「ん…っ、ふ…」
ようやく唇が離れる。既に体温が上がり、心臓が脈打っていた。土方はそのまま総司を押し倒し、首筋から鎖骨、胸に当たりにまで唇を這わせる。くすぐったい感触が続き身体を捩ると、土方は急に強く肌を吸い上げる。
「とし…ぞ、さん…痕が付く…」
「浮気なんかされたらたまらないからな」
「そんなの…歳三さんに、言われたくない…」
数々の女性遍歴を幼い頃から目の当たりにしてきたのだ。土方がそれを口にしたところで説得力はない。
しかし土方はまるでそれをなかったかのように
「男はお前だけだ」
などと言った。
(嘘つき…)
思い起こせば一年前、楠と関係を持ったじゃないか。尤も、本人が明言したわけではないので真実は誰も知らないし噂程度のことではあったのだが。
(…今更掘り起こして問い詰めるのも、嫌だ…)
多少胸が痛んだところで、過去なんて気にしてもどうしようもない。そんなことはわかっている。
「…っあ…!」
まるでその思考を遮るかのように、土方が胸の飾りを強く弄る。初めは平らだったそれが、土方の舌とそして興奮によって立ち上がる。
そして彼の手が下部へ伸びていく。
「ん…!」
身体がびくんと跳ねた。これまでのまるで遊びのような、戯れから一変し、土方は少し硬くなったそれを激しく舐めた。
「んっ、あぁ、ぁぁあ、としぞ…さん!」
「ん…?」
「そんなにつよく、したら…嫌だ…」
自分だけ気持ちよくなってしまう。
そう訴えると、土方はそれから口を離し、代わりに総司の手を取った。
「え…?」
「じゃあ…お前も触れ」
「…あ…」
土方の意図していることを察し、総司は土方に先導されるまま、指先を絡めた。
(硬く…なってる…)
自分だけではなく、彼も興奮をしているのだと分かる。総司は土方がそうしてくれるようにそれを扱いた。土方も同じようにしてくれるが、土方の方がコツを掴んでいるのか、息が上がるのは総司の方が早かった。
「あ、あぁ、あ…っ」
「もう濡れてる…いくのか?」
「やっ…まだ、待って…」
待って、と言ったもののしかし身体はびくびくと跳ねて、翻弄されている。少しでも強い刺激を与えられれば、弾けてしまいそうなほど欲望が膨らんでいる。
それに気が付いたのか、土方はふっと耳元で笑って
「ダメだ」
と囁いた。そして手の動きを速める。
「あっ!も、あ、あぁぁ…っ!」
強い刺激を与えられたそれは、あっけなく欲望を吐き出して、土方の手を汚した。総司は土方の胸に頭を置き
「も…歳三さん、意地悪…」
と文句を口にした。待ってと言ったのに。
すると土方は何も答えず、そのまま総司を押し倒した。少し乱暴に畳に打ち付けられ、驚いていると腿の裏から持ち上げられるように両脚を高く上げられて慌てた。
「歳三さん…?!」
「悪いが、今日はあまり優しくしてやれないかもしれない」
「え…?」
息が上がった土方の声は、いつもよりも低音に響く。そして宛がわれたそれは固く反り返っていた。
「…っ、ぅ…!」
まるで身体を裂くようだ。大きく脚が開かされている分、入りやすいがそれでも狭い場所を切り開いていく、身体の軋みには慣れそうもない。
「ぁ…ぁぁ…」
「総司…少し、我慢してくれ…」
土方は宣言通り、強引に中へ中へと押し込む。
先日の夜は、身体の痛みよりも心の痛みが勝り、痛みを感じるほどの余裕がなかったが、今は身体が繋がる圧迫感をまざまざと感じる。平気なふりをしていたかったけれど、顔を顰めてしまうのは我慢できなかった。
するとそれに気が付いたのか、土方は総司の一度いって濡れそぼったそれに触れた。気持ちいいポイントだけを攻め、早々に身体は興奮へと誘われた。
「あ…っ、あ、ん…」
その興奮に誤魔化されるようになかに挿入されたものが、奥まで入る。生暖かい独特の感覚だが、彼と繋がっているのだと思うと、それは不思議な心地だった。
「はー…っ、ぁ…」
「きついか…?」
「だ、大丈夫…です…」
少し笑って誤魔化す。本当は圧迫感に押しつぶされそうで、鈍い痛みが身体中を巡っていた。
それを知ってか知らずか、土方は探し当てるようにある場所だけを執拗に攻める。そこはすべての感覚が失われるほど快楽を感じる場所だ。
「あっ!あ、あぁ!」
思わず声が上がる。静かだった部屋の響き渡る声は、まるで自分のものには聞こえなかった。足の先から指の先まですべてが、まるで土方のものになってしまったみたいだ。
「も、としぞ…さん!もう…きもち…いい…」
「…っ 馬鹿…」
「え…?あ…」
中を蹂躙する土方のものが、膨らんだのがわかった。
月明かりのなかでうっすらと浮かぶ彼の表情が、今までになく切羽詰まった表情で。
(愛しい…)
どうしてだろう。その気持ちもまた、大きくなった気がした。
総司は両手を伸ばして土方の首に回す。気怠い上半身をどうにか起こし、そのまま彼に抱き着いた。
「総司…?」
「このまま、してください」
もっと近い場所で
吐息を、
心臓の音を、
小さく漏れる声を聞いていたい。
(忘れないように…)
遠くに行っても、寂しくないように。


月の明りはやがて、朝を告げる光となった。
着の身着のままで寝ていた総司はゆっくりと目を覚ます。寝覚めの悪い土方はもちろんまだ眠ったままで、総司は苦笑しつつ肩から衣服を掛けた。すると傍に置いていた鏡が目に入った。
「あー…くっきり…」
自分の肌には赤い刻印のような痕が沢山刻まれていた。当分人前での脱衣は避けた方がよさそうだ。
そしてその代わりに土方の背中には無数の爪痕が残されていることだろう。
(大丈夫…)
すっぽり空いてしまっていた穴が、一晩で埋まったような気がした。
寂しくないと言えばうそになってしまうけれど、それでも彼を待つだけの勇気はもらえた気がした。
刻み込まれた、証しがあるから。







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