零れる ―わらべうた322.5―




総司の逸る気持ちとは裏腹に、土方はいつにもまして一つ一つの仕草を深く楽しむように弄んだ。
「…っ、うぅ…」
声を漏らすまいと両手でどうにか口を覆う総司を尻目に、土方は遠慮なく下肢をかき回す。誰が覗いてもおかしくない状況だというのに、隠すような仕草も意図もない。
しかし総司がそれに抵抗してしまえば、結果として声を上げてしまうことになるので、ただただ耐えるしかなかった。声を聞かれて誰かに踏み込まれでもしたら、と思うと背筋がぞっとする。
だが、土方はいつにもまして妙に意地悪だった。
「…ここ、濡れている。いつもより早い」
「っ、もう…!」
小声ではあるが、こんなところで行為に及ぶ自分たちをからかうようにして煽ってくるのだ。そしていつもよりも執拗に弄る。
「なぁ…お前、いつもより興奮しているだろう。誰かに見られると思うと興奮するのか?」
「ち、ちが…!も、そういうこと…」
言わないでください、と続けようとした言葉が遮られる。唇が重なって、くちゅくちゅと卑猥な音を立てるのだ。その音さえも誰かに聞かれているのかもしれないのに。
「…舐めるぞ」
「えっ?あ…っ!」
土方が前もって宣言してくれたおかげで声を挙げないで済んだが、生温かな土方の口内に含まれたそれは、痙攣を起こして身体中に快感という刺激を与えた。
既に屹立したものを舐めまわされ、扱かれ、吸われ…翻弄されて、総司はあっという間に絶頂に持って行かれる。どうにか理性だけは手放さないように、と手の甲を噛んで声を漏らさないように努めるが、
「…っ、ぅう…っ!」
しかし土方は容赦なく全てをかき回して、総司を果てさせた。土方はそれをあっさりと嚥下したが、総司はそれに構っている場合では無い。声を我慢しただけなのに、まるでまだ快感が残っているように感じてしまう。
「…も…歳三さん…」
「ん?」
「勘弁…してください…」
これ以上されると声が出てしまうし、万が一あられもない姿を土方以外に見られるのは絶対に嫌だ。
だが、土方は
「馬鹿だな」
ともう一度、果てたばかりのそれに触れた。そしてもう一度、呼び起こすようにしてそれを扱き始める。てっきりやめてくれると思った総司は、驚くしかなかった。
「だ、駄目だって…!」
「勘弁してくれ、なんて言われたら…男はますます止まらなくなるに決まっているだろう」
(そんな…)
と理不尽な土方と自分の発言を呪いつつ、また襲ってくる快感に声を漏らすのを耐えるしかない。しかも土方はその奥の固く閉じた場所に、白濁したものを擦りつける。そしてその奥へと指を差し入れた。
(嘘…!)
まさかそこまで、と思い土方の顔を見るが、その顔は冗談でやっている風ではない。むしろ今までに見たことの無いほど、切迫した表情をしていた。江戸に行く前に睦みあったあの時以上に、自分が求められているのだと分かる。
「んっ、んぅう…!」
そしていつの間にか土方の堅いものが、当てこする様にそこに触れていた。そして土方は耐えきれなくなったかのように
「総司…入れる」
と宣言する。有無を言わせない物言いだ。そしてその言葉通りに狭い場所を押し上げるように、大きく反り起ったものが身体の中に入ってくる。
「っ…!」
初めてのことではない、と分かっていてもいつもなら十二分に解された場所に入れられるのと、このように性急に求められるのとではまるで感覚が違う。身体が軋むような痛みに、総司は思わず腰を引くが、逆に土方に腰を掴まれて引き寄せられてしまう。
さすがにこの時は悲鳴を挙げそうになったが、どうにか手の甲を噛むことで誤魔化した。
土方は
「…ぁぁ…」
と満足げな吐息を漏らす。その顔を見てこんな意地悪な状況とはいえ、総司も何か満たされた気持ちになる。
そして入れたまま静止し、ようやく総司の頬に触れた。そして覆いかぶさるように抱きしめて、耳元で囁いた。
「悪い…」
「…え?」
「お前の身体のことを考えずに…やっているのは、わかっている」
これまでの野獣と化したかのような性欲を収めて、土方は素直に謝る。
「歳三さん…」
「ずっと…お前を抱きたいと…思っていた。京に戻ったら一番に…。だが、…お前が嫌だと言うなら、今すぐにやめる」
「…っ」
切れ切れの声。いつもよりも少しトーンの低い、しかし甘い囁き。こんな風に切羽詰まった土方は総司でも見たことはない。
(歳三さんは…卑怯だ…)
そんなことを言われてしまったら、拒みたくても拒めない。
総司は抱きしめた土方の首に自分の手を回して抱き返した。
「…して、ください…」
沸騰するように恥ずかしかったけれど、総司はここでやめるという選択は自分のなかになかった。
(きっと…いやらしくなってしまったんだ…)
こんな場所で、こんな状態で、してほしいなんて、思う自分は。
すると土方は仰向けになっていた総司を、そのまま抱き起す。自分を跨ぐように膝立ちさせた。
「声が出そうになったら、俺を噛んでいい。背中に爪を立てても構わない。ただ…抱き着いていればいい」
「…はい」
言われるがままに強く、きつく抱き着く。
それを合図にして土方は総司の中にいれたものを、突き上げるようにして腰を動かした。
「…っ!!」
噛むわけにはいかない、と思っていたのに今までとは違う快感に総司は早速、土方の肩の辺りを噛むことで声を我慢した。
(どうしよう…!)
このまま我慢できる気がしないほど、気持ちいい。
まるで今まで触れていなかった場所に、届くかのように土方のものが繰り返し打ち付けられて…頭がボーっとする。
「…ッ、は…、はぁ…」
そしてまた土方の声もまた熱い吐息となって溢れ出ていた。
その後はお互いにどうにか声を漏らさないという一点だけは守り、後は貪るように食らいつくした。もう駄目だと思うまで、根こそぎ奪い合うような行為の最後には、総司の意識は半分飛んでいた。
そのうっすらと混濁したなか、総司はどうにか土方に伝えた。
「…私も、寂しかったです」
と。








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