ララバイ ―わらべうた360.5―






「他のことを考えているだろう?」
土方に目敏く指摘され、総司ははっと気が付いた。
「あー…その、いえ…」
「誤魔化しても無駄だ。お前のことは大概わかる」
深くため息をつきながら、土方は総司へと伸ばしていた手を引っ込めた。そして身体を翻して総司に背を向けた。
「…あの、土方さん?」
「…」
聞こえているはずなのに土方の返答はない。寝起きが悪い土方は寝つきも悪いので、この一瞬で寝てしまったということはない。
(怒らせたみたいだ)
確かに土方を目の前に、馬越や武田のことで頭がいっぱいになってしまっていた。別宅にやってきたのは久々だったのに、土方のことだけを考えられなかった自分に非はある。
しかしその一方で
「土方さん」
「…」
「機嫌を直してください」
「…」
(子供みたいに怒らなくても…)
総司は内心苦笑した。怒る、というよりも、背中を向けて無言を貫く土方は拗ねているみたいだ。総司は仕方なく土方と同じように横になり、背後から手をのばして抱きしめた。
(大きい…)
同じ男であっても、骨格の大きさは自分のそれとは違う。少しのばすようにしないと手が回らない。
「なにしているんだ?」
「え? うわ、ちょ…!」
伸ばした手を掴まれて、総司は身体ごと土方に覆いかぶさるようになった。剣術では力が勝っているのに、胆力で言えば土方の方が上なのは、やはり骨格が関係しているのかもしれない。
「んぅ…!」
呑気なことを考えている思考を見咎められるように、土方は総司の後頭部を押さえつけるようにして口付けを交わした。息も詰まるような口付けで、口腔を支配される。
「…も、とし…」
「好きにさせろ」
エゴイスティックに言い放った土方は、口腔を犯した舌で今度は首筋を吸った。
(そんなの、いつもしているくせに)
いつもならそう文句を言っていたけれど、しかし息が上がってしまった総司はされるがままに身体を任せることしかできず、いつの間にか土方の上に馬乗りになってしまっていた。そして土方に強引に襟を掴まれて上半身を晒される。
まだ陽も暮れていない別宅の障子は開け放たれていて、庭からはこの部屋は丸見えだ。高い生垣があるので道行く人に見られることはないだろうが、それでも誰かに見られている、という気恥ずかしさが湧き上がる。
「歳三さん…!」
しかし間の悪いことに脱ぎかけの着物の袖が絡まり、手の自由がきかない。そんな総司を知ってか知らずか、土方は構わずに鎖骨から舐めまわすように、吸い上げるように、弄んでいく。
そしてその舌が旨の飾りに触れたとき、背筋をビリビリとした衝撃が走った。
「…っ、ん…!」
総司の反応を見て、土方はさらにそこを甘噛みした。そこに触れられるのが一番恥ずかしい。まるで女になってしまったかのような錯覚を覚えてしまうから。
そして土方はそこを執拗に責めながら、一方で指先を下半身へと伸ばした。
「と、しぞう…さん!」
「久しぶりだからな…ここ、固くなっているな」
「…も、やだ…そういうこと、言わないでください」
総司の羞恥心を煽るように、土方は言葉を選ばずにいつも直接的な台詞を口にする。そしてそれを嫌がる総司をからかっているのだ。
土方は指先を巧みに動かしつついつの間にか総司の袴の紐を解き、さらに快感を煽った。そして
「腰を浮かせろ」
と命令してその通りにさせると、自分のものを押し当てて、一気に押し込んだ。
「…っ!」
こればかりは土方も知らない、総司にしかわからない感覚だ。まるで自分の体が自分のものじゃなくなってしまったかのように痙攣して、一気に足の力が抜ける。
「あ…っ、あ、あ…」
支えきれなくなった身体を土方に託しつつ、総司は痙攣の先にある快感を覚え始めていた。こうして土方と繋がったことはまだ数回しかないけれど、自分の体が作り変えられているような気持になっていく。
やがて土方がしたから突き上げるように腰を動かし始める。そのたびに大きな声をあげてしまうが、その一方で土方もまたその表情が変わっていく。
彼が夢中になっていく。
鬼と呼ばれて、周到に立ち回り、そつがない彼が今この時だけは自分のことしか頭にない。
それが総司の中にある何かを温かくさせて
「ん、んぅ、ああ…!」
身も心も満たされていく。


「いく、」
と総司が口にしてからすぐに二人は果てた。荒い息で胸を上下させつつ、総司は土方の胸元に耳を当てた。激しい息遣い通りの鼓動が聞こえてくる。
自分と同じリズムで刻まれるそれが、二人が一緒になっていたという証拠みたいだ。
「…もう、夜になっちゃいましたね…」
行為に夢中でいつの間にか夜を迎えていたことすら気が付かなかった。薄暗い部屋のなか、二人の鼓動が同じように収まって、心地よい音になっていく。
総司は急に眠気に襲われた。
まるでその音が子守唄のように聞こえたからだ。







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