わらべうた440・8 −真夜中の誓い−






口づけを交わしたのは、随分久しぶりのような気がした。
心がすれ違ったままのそれとは違い、甘美な熱に侵されてふわふわとした心地になる。
「ん…」
「熱いな…」
十二月の真夜中だというのに、二人の間に流れる空気は熱い。誰もいない別宅で気が緩み何度も口づけを交わしていたせいだ。
「障子を開けますか?でも夜風は冷たいですから風邪をひいてしまいますよね…」
「お前が声を我慢できるならそうしろ」
土方の揶揄に総司は首を横に振った。
「…だめです。これ以上はしませんから」
塞がっているとはいえ脇腹の傷は痛むに決まっている。土方のことだから無理をしてしまいそうだ。
しかし土方はそんな言葉を無視して、総司の首筋に顔を埋めて鎖骨を舐めた。そして慣れた手つきで袴の紐を解いてしまう。
「ちょ…っと、歳三さん!」
「お前が動けば問題ないだろう」
「う、動くって…」
「いいから、跨がれ」
土方は仰向けに横になり、総司は彼の腰のあたりを跨ぐように馬乗りになった。
脇腹に触れないように…と気遣う総司を横目に、土方は総司の襟を掴んで引き寄せてその奥にある赤い飾りに触れた。
「んっ…!」
幼い頃は何のためにあるのかわからなかったそれが、こうして彼に触れられ啄ばまれているとその意味を為す。小刻みに揺れる身体を抑えることができない。
「…総司、こっちを弄ってろ」
昂ったそれを指摘されて総司の顔は真っ赤に染まる。部屋には一本の蝋燭しかないが、土方には気づかれてしまっただろう。
彼に言われるがままに自身のものに手を伸ばすと、すぐそばの土方のものも大きく反り立っていることがわかった。
総司はなれない手つきでながらも、土方の帯を解いてその奥にあるものに触れる。自分のものと合わせて両手で擦るようにすると
「…ん…」
と土方の微かな吐息が漏れた。
彼は今、同じように愛欲に溺れている。お互いが互いを求め合い、触れ合う温かさが心に沁みた。
(僕には…歳三さんしかいないんだ)
こんな恥ずかしくて仕方ないことができるのは、相手が土方だから。彼の求めるままに何もかもを受け入れてしまえるのは、彼のことが好きだから。
もっと彼と一緒に溶けてしまいたい。
総司は両手で扱いていたものを片手に持ち替えて、もう片方の手で自身の奥に触れた。指先から中にねじ込む。
「…最後までしないんじゃなかったのか?」
その様子を見て土方は少し驚いた様子だった。
「だ…って、もう…」
「我慢できないのか?」
「…っ、歳三さんこそ…」
「ああ、俺は無理だ」
土方は胸の飾りに伸ばしていた手を、総司の昂りに伸ばした。自分とはちがう大きくて長い指先に翻弄されていく。
「あ…っ、あ、あぁ…!」
「そんな声を出すな…」
それまで余裕があった土方の声が掠れる。自分だけではなく、彼も求めてくれている。
今夜はそれがどうしようもなく嬉しくて、
どうしようもなく、早く繋がりたいと思ってしまった。
(僕はどうしてしまったのだろう…)
早く、早く、と求める心を止めることができない。
総司は腰を上げて、土方の昂りをあてがった。
「そう…!」
彼が止める前に、それを身体の中に押し込む。久々の行為のせいか裂けるような痛みが身体中に駆け巡った。
「…っ、馬鹿、急に何してるんだ」
土方も中が狭いせいか困惑していた。けれどそれ以上に脈打っている。
「気持ちいいですか…?」
「…俺はいい。だがお前は…」
「痛いです…けど、嬉しいから良いんです」
縁談の話が持ち上がってから、土方との距離を感じていた。近くにいるのに、心は遠く離れてしまったような不安に苛まれていた。
でもこうして互いの気持ちが同じだと確信して身体を繋げることができたことが、今は素直に嬉しい。
「総司…」
「…歳三さん、私は歳三さんが好きです。だからなんだってできるんです」
あなたのためならば、何でもできる。この身を捧げることだって厭わない。
土方は少し目を見開いて、そのあとは穏やかに微笑んだ。普段は鬼と言われている険しい表情がそんな風に形が変わる。
そして
「俺も、お前が好きだ」
形の良い唇から溢れる甘い言葉に解きほぐされていく。
それが嬉しくて仕方なくて、総司は腰を動かした。まだ痛みはあるものの彼が気持ちよくなってくれる方がいいと思ったからだ。
腰の傷に触りがないように…と気遣うことができたのは最初だけで、あとは心の赴くままに、土方が望むままに受け入れ続けた。
「あっ、あ、あ、いく、いく…!」
「俺もだ…」
掠れる声に導かれるように二人で果てた時、すでに外は夜明けを迎えようとしていて、薄っすらと明るくなり始めていた。はあはあと荒い息をさせながら天井を見上げる。
「…あ」
「ん、何だ」
土方の体を気遣って馬乗りになっていたはずなのに、いつの間にか押し倒されてしまっていた。総司は咄嗟に脇腹の傷を見るが、血が滲んでいる様子などはなく、ほっと安堵した。
「寒くないか?」
土方がそうたずねる。体は火照ったままで寒くなどなかったが、何も言わずに彼の腕の中に身を寄せた。土方も総司を抱きしめるようにして包み込む。
限りある時間だとわかっていても、この時がずっと続けば良いーーそう願う心は止められなかった。













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