わらべうた461.5 ―それから―




総司が事情を話すと土方の機嫌はみるみるうちに悪くなっていった。
「だから、ただの事故なんです!」
大石と何かあったのではないか…その土方の鋭い疑いを躱し切ることができず素直に白状する羽目になってしまった。
「あれはきっと大石さんの嫌味というか…だって私が怒った顔を見て喜んでいたんですから、本気じゃないんです」
「そんなこと言い切れるものか。だいたいお前には隙がありすぎる」
「隙も何もいっしょに暮らしている同志ですから仕方ないじゃないですか。だいたい、そんな物好きは歳三さんか斉藤さんくらいしか…」
大石とのことを否定したいあまりムキになっていた総司だったが、口から滑った彼の名前にはっと我に返った。
「斉藤…か」
土方はため息混じりに呟いた。それまでの大石への苛立ちは影を潜めた。
「…あの、歳三さん。誤解しないで欲しいんですけど…」
「わかってる。お前がそんなの器用じゃないことくらい…ただあいつは大石以上に厄介だからな」
「厄介って…」
大石とは違い土方は斉藤のことを重用している。今は長州に潜伏してる山崎が彼の右腕なのだとすれば、左腕は斉藤だ。けれど一方で斉藤が総司に寄せる想いのことも知っていて、腹心の部下でありながら恋敵という複雑な関係だ。
「あいつとは最近何かあったか?」
「…縁談の時にはとても怒っている感じでしたけど…いまは何かあれば言ってくれと」
『笑っているなら、それで』
いつも通りの淡々とした斉藤の物言いだったけれど、心からの優しさに溢れた言葉だった。彼の思いに答えられない罪悪感とともに、彼の近しい存在でいられることが有難く感じた。
土方は総司の首筋に手を伸ばして、そして強く引き寄せられる。
「…歳三さん」
「あんまりあいつには近づくなよ」
「大石さんですか?」
「馬鹿、違うに決まってるだろ」
土方は誰とは言わないでそのまま総司に口付けた。生温かい感触は互いの乾燥した唇を舐め溶かしていく。
「ん…っ」
彼の舌が口腔を掻き乱す。クチュクチュと卑猥な音が部屋に響く。
夜も更け、屯所は静まり返っている。こんな些細な音でさえだれかに聞かれているんじゃないかと思うと、過剰に意識してしまう。
総司は土方の背中を叩いた。
「…とし、ぞうさん…ここ、屯所…!」
「ああ…だから、声我慢しろよ」
土方は総司の背中を押してそのまま覆いかぶさった。強引に襟を掴まれ上半身を晒されると、冷たい部屋の空気を直に感じた。少しだけ鳥肌が立ったのを気づかれたのだろう。
「すぐに…熱くしてやる」
土方は挑戦的な眼差しでそういって、鎖骨を噛んだ。
「ん…っ!」
月明かりだけが差し込む部屋。
暗がりのなかで彼の触れる場所や熱い吐息だけを感じる。そこから伝わるのは普段はおくびにも見せない彼の感情。
(ああ…そっか、負けず嫌いだから…)
大石との口付けや斉藤との微妙な距離感だって、本当は許せないはずだ。
けれど彼には彼なりの枷がある。自分の独占欲が総司の妨げにならないように…と以前語っていたことがあった。でもいまこうして身体を重ねている時だけはその枷を外し、我儘に貪るのだ。
総司は土方の背中に両腕を回して抱きしめた。こんなとき何を言ったらいいのか、何が土方を喜ばせるのかはわからない。でもこうしていればきっと聡い彼はわかってくれるはずだ。
「…総司…」
土方が名前を呼んだ。
どくんと跳ねた鼓動が、きっと彼の耳に響いたはずだ。
彼の手が総司の袴の紐をあっという間に解いて行く。そして最奥にある場所に触れた。
「あ…」
まだ固く閉じた場所を彼の指がこじ開けようとしている。その痛みを誤魔化すために彼のもう片方の手が総司の高ぶりをしごいた。
「あっ、あぁ…」
このままっと言う間に彼に翻弄されるままに果ててしまいそうだ。
総司は力を振り絞って身体を起こし、土方と向かい合った。そして同じように袴の紐を解き興奮し高ぶった土方のそれを両手で包んだ。
「…総司…」
「歳三さん…」
自然と見つめあった二人は、そのまま口付けた。濃厚に繰り返される接吻。おそらく土方は総司の唇に残る別の男の存在をかき消そうとしているのだ。
(そんなことをしなくてもいいのに…)
そんなことをしなくても、もう目の前の彼しか見えていない。
「ふぁ…!」
固く閉じていたはずの場所に彼の太い指が二本、差し込まれる。どうすれば総司がさらに良くなるのか知っている土方は遠慮なくそこを責め続けた。
「あっ、あ、あぁ…ん!」
抑えろと言われた声が、土方の唇によって塞がれた。下腹部に差し込まれる指使いの激しさと、呼吸も疎かになるほどの口付けの応酬に総司はクラクラと沸騰しているような気持ちになった。
(いく…!)
そう思った途端に、果てた。彼の唇で塞がれていたから声を出さないで済んだけれどそれはそれで恥ずかしかった。
「…歳三さん…あの…」
総司の手の中には未だに熱を持った土方の高ぶりがある。
すると土方は着物と袴を脱ぎ始める。
彼がこれから何をするのか…わかっていながらそれを待っている時間が本当は一番恥ずかしい。
(だって…本当は嫌じゃなくて、欲しいんだって知られてしまう…)
いつの間に自分はこんなにいやらしい人間になってしまったのだろう。
「うつ伏せになれ」
「…はい」
言われた通りに背中を向けると、彼は双尻を広げその奥に彼自身の高ぶりを押し当てた。
「…っ、は…ぁ!」
未だに閉じた部分を抉じ開けられるような感触には慣れることができない。その辺りにあった座布団を抱きしめて痛みが去るのを待つ。
「…なあ、総司…」
「っ…え?」
「お前…俺のこと、好きだよな」
土方がなぜそんなことを聞いてきたのか…うつ伏せにさせられているので、土方がどんな顔でそれを言ったのかはわからない。
いつも自信満々なくせに、その言葉だけはなぜか弱々しく聞こえて。
「…好き…好きです、あたりまえです…」
なんの疑う余地もない。
全身全霊で、この身のすべてで彼のことを好きだと言える。でもそう伝えても、きっとまだ足りないと言うのだろうけれど。
「そうだな…当たり前だな」
「あっ!ひっ、ひぃ…ぁ!」
土方は総司の腰を掴み、逃さないように引き寄せた。そして昂ぶったものを奥へ奥へと押し込んで行く。
その痛みが、その強さが、「好きだ」と言っているような気がした。
そうやって重ねていく、この想いが辿り着く場所は一体何処なのだろう。
わからない。
けれどわかることもある。
それは、
その隣にはきっと彼がいるということだ――。















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