わらべうた724.5 ―満月―





二人は別宅にやってくるなり、口づけた。
待ちきれなかったと言わんばかりに玄関先で抱き合い、絡み合うように押し倒される。
「っ、…ぅ、ふっ…」
息もできないような口づけは、病だとわかってからも変わらなかった。彼らの間では「移る」という考えすら失われ、互いの身体は共有された同じもののように感じていた。
けれど今夜はまるで満月に唆された狼のように、土方は激しく濃密な接触を求める…当然明後日の出立を意識しているのだ。
「…ん、とし…ぞさん、」
「なんだ…?」
「なか…に、入りましょう」
残暑とはいえ夜はそれなりに冷える。総司は硬い木板の上ではなく、畳の上が良いと誘ったのだが、その途端急に土方の身体が離れた。
「…いや…」
土方は視線を逸らし、耐えるように顔を顰めた。感情と理性がせめぎ合う…それは毎回見る表情だった。
(まただ…)
今年の正月に総司が別れを切り出した時に半ば強引に体を重ねてから半年以上経つが、それ以来土方は口づけ以降の行為を拒んでいた。
もちろんそれは負担の大きい総司の身体を慮ってのことだ。
「…少し頭を冷やしてくる」
土方はそう言って物理的な距離を取るために別宅を出て行こうとしたが、総司はその腕を引いて引き止めた。
「待ってください!私は…私は、平気ですから」
「平気のわけがないだろう。皆がお前を思いやって負担を減らしているのに…俺がそれを無にするわけにはいかない」
「でも…」
「俺は耐えられる、お前も治るまでのことだと思って我慢しろ」
土方の言うことは正しい。今までもその理屈でなんとか熱を抑えて止まってきたのだから。
けれど今宵は状況が異なる。
(歳三さんがいない間に、もし…僕に何かあったら…)
そう思うと居ても立っても居られない。総司は縋るように土方の背中に抱き付いた。
「歳三さん…お願いです」
「…」
「いない間もちゃんと養生します。文も書きます、だから…少しだけ私に、触って」
土方は少し黙り込んだが、ゆっくりと振り返って真正面から総司を抱きしめた。そして深く深呼吸して
「…ここじゃ、寒いな」
と言った。


部屋に移った二人は、先ほどの口づけの続きをかわした。総司は土方の気が変わるのが怖くて、積極的に身体を寄せて指を這わせ、彼の首筋に触れた。土方はそんな総司の機微に触れ
「…ふ、どうした?」
と尋ねた。
「だって…やっぱりやめた、なんて言われたくないし…」
「安心しろ、もうやめるつもりはない」
きっぱり言い切った土方はそれを証明するように、総司の襟に手をかけて脱がせるとそのまま肩口から鎖骨を愛撫し、胸の飾りを強く吸った。
「あ…っ」
「久しぶりだが、感覚は鈍ってないみたいだな」
「もう…」
揶揄われるように言われて総司は拗ねたが、しかしそんな感情もすぐに上書きされて次第に何も考えられなくなる。
(…なんだろう、これ…すごく気持ち良い…)
待ち焦がれた身体はしなるようにして土方を求める。
今日の眩しすぎる満月が部屋に差し込んで明るく照らすせいで二人のかさなる影がはっきりと見えた。それに気がついた途端、妙な羞恥心が湧いてきたが、既に土方の指先は袴の紐を解いていた。
「どうした?」
「は、恥ずかしい…」
「…そうみたいだな。逃げるなよ」
土方は微笑しながら、震えながら屹立した総司のものを躊躇いなく口に含んだ。
「ひぃ、あ、ぁぁ…」
土方は口を窄まして吸い取るように強く扱いた。宣言通り逃げる暇など与えない、矢継ぎ早の刺激を与え続けられ、総司は悲鳴をあげる。けれどその強い快感に身体は正直に反応し、最初は躊躇っていたはずなのにいつの間にか足を大きく開きまるで彼に差し出すようにしてしまっていた。当然、果てるのもあっという間で、いつのまにか仰向けで倒れていた。土方が自分のものを嚥下する様子を呆然と見ていると、再び彼は総司の股間へ顔を埋めた。
「ちょっ…!歳三さん!」
「この程度で満足したのか?」
「や、やだ、まってまって…あ、あぁ…」
果てたばかりのそれは過剰に敏感になっていて、再び与えられた温かな舌の絶妙な行使によってまた興奮し始める。
「ふっ、ん、うっ…あぁ…」
総司は目がチカチカしながら、嫌というほどその興奮を味わった。土方が太腿をさらに開かせるせいで先ほどよりも更に強い快感を得られる。そして自分をそれを求めて腰を上げる。
「あ、あ、イ、イク、いく!」
声にならない声と共に二度目の絶頂を迎えて総司は今度こそくたくたになった。
土方は口の端の白濁としたものを脱ぐいながら
「お前、やらしくなったな」
と笑った。悔しいやら恥ずかしいやらで顔は真っ赤に染まっているはずだ。
「だっ…て、…それは…」
「ずっとしたかったんだろう?」
「…そうです」
この状況でいくら否定したって説得力がない。それに土方の指先は既にその奥へと触れていて、また頭が真っ白になってしまうのだ。
先ほどの性急な行為とは違い、今度はゆっくり慎重に指先を奥へと進める。総司にはまどろっこしいくらいだった。
すると土方は総司にうつ伏せになるように言って、そのまま腰を引いて四つん這いにさせた。
「歳三さん!」
「いいから、こっちの方が楽だ」
そういうと次は背後から太腿を開かせて、その最奥を広げると舌を這わせた。久しぶりの感触に総司の下半身は震えたが、同時に侵入した土方の指先が心地よい場所を刺激する。
「あ…っ、あ、あ…!」
くちゃくちゃと卑猥な音が静かな別宅に響く。屯所でも行為に及んだことはあったが、どうやって声を我慢していたのかわからなくなってしまったようで、耐えきれぬ喘ぎ声が溢れた。そして土方のもう片方の手がまた屹立し始めたそれに触れた時、「ああ!」と声を上げた。
「、やだ、やだもう…また、いっちゃう…!」
三ヶ所を刺激され総司は自分がどうにかしてしまったのではないかと思うくらいに、自分の身体の感覚がなく、ただ与えられる刺激だけに支配された。目からは涙が溢れて、唇から堪えきれない唾液が滴る。
そして三度目の絶頂を迎えようとした時、土方の手が止まった。
「ひっ……と、歳三さん…?」
「悪い、ここでやめるつもりだったが…」
無理だと言わんばかりに大きく硬くなった土方のものが押し付けられ、一気に中に入った。
「あぁっ!」
「ずっと…お前に触れたかったんだ」
「っ…」
こんな時でしか聞けない土方の本心に触れ、総司の心もまた熱く彼を求める。
土方は総司の腰を掴み、激しく上下に揺らした。パァンパァンという肌がぶつかる音が響いた。けれどそれ以上に、
「あっあっ!や、あ、ぁああ…!」
自分のものとも思えぬ嬌声が鼓膜を揺らし続ける。そして土方が果てた時、総司はぐったりと畳にうつ伏せになった。
「…総司、大丈夫か?」
「大丈夫…です、けど…」
思った以上に身体の負担がなかったのは、短時間で終えるように土方が気遣ってくれたからなのだろう。
抜かれた場所から土方の白濁としたものがドロリと溢れるのを感じた途端、一気に羞恥心が押し寄せてきて総司は身体を丸めた。
「信じられない…」
「…何言ってるんだ。お前も望んだことだろう?」
「そうですけど…こんなに、ずっと…」
一方的にイカされ続けたようなのは初めてだ。
土方はフッと笑った。
「三回目は出さずにイったみたいだな」
「えっ?そんな…!」
総司は身体を起こそうとしたが、いつになく下半身に力が入らずバランスを崩した。それを土方が支えて耳元で囁く。
「いつもより、良かっただろう?」
「…っ、歳三さんの馬鹿…」
総司は土方の胸元に顔を埋めた。
久しぶりの行為にくたくただったけれど、それ以上に心が満たされていた。
病で何もかもを失ったと思っていたけれど、またこうして一番近くで土方を感じられる安堵の気持ちでいっぱいだったのだ。
そしてそれは土方も同じだったのだろう、総司の背中に手を回し優しく抱きしめていた。







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