わらべうた793.5 ―こんな夜は―




人気のない別宅に一つの火鉢と二人分の体温。
けれど口づけを交わせばそれだけで熱が上がり、寒さなど忘れた。離れがたくて何度も唇を求めると互いに息が上がり、感情が昂っていた。
「…いいか?」
土方の問いかけに総司は頷いて答えた。いまだに彼に押し倒されるとこれから何をするのか…といろいろなことが過り羞恥心を覚えてしまう。
けれど今宵の土方は様子が違った。優しく抱きしめ、頬に触れて耳朶を甘噛みしゆっくりと首筋に唇を寄せる。いつもなら少し強引に求められるのに、くすぐったいようなむず痒いような時間がいよいよ耐えきれず、身を捩りながら
「なんか今日、変ですよ」
と尋ねた。すると土方は鎖骨に触れなが「今夜くらいは優しくする」と答えた。人生の大きな決断を下した総司を慰めてくれるらしい。
土方の舌が肩を這い、時折強く吸って印を残す。総司はその度に小さな声をあげたが、器用な土方は空いている片方の指先で袴の紐を解いてしまった。
「あ…、としぞ、さん…」
「何だ?」
「汗、かいてるんだった…」
近藤との最後の稽古で、真冬だと言うのに汗だくになった。風邪をひかないように拭き取って着替えたが、思い出して身を捩る。
しかし土方は少し笑って
「気にするな」
と言い、袴の奥へ手を伸ばした。
「あっ…!」
「…今更、風呂なんていけるのか?」
土方の手が慣れたようにそこを扱く。彼に口づけされた時から徐々に固くなっていたそれは彼の手によってさらに興奮が昂り、ついには制御できなくなってしまう。
「あっあっ…やだ、としぞ、さん…っ!もう…!」
「まだいくなよ」
「あぁっ!」
もう耐えきれなくて涙目になっていたのに、土方は果てようとしたものを堰き止めてしまう。
「歳三さん…っ」
(優しくするって言ったのに…!)
総司は果てのない昂りを堪えながら土方を睨むと、彼は悪戯をするように少し笑って自分の袴を解いた。そして屹立するそれを総司のものと重ねた。総司よりも昂るものを見せつけられ、なぜだかさらに興奮が強まる。
「俺のも…こんなになった」
「…っ、歳三さん…」
土方は総司を仰向けにさせた。この先の展開を熟知している総司は自然と身構えたが、土方は
「足、閉じてろ」
と言った。
「え…?」
「稽古で体力が消耗しているだろう。無理はしない」
土方は微笑むと総司の腰を掴みながら足の間に挟んだ。今までにない感覚と展開に頭がついていかずに混乱するが、
(こんなの、いつもより…変になる!)
身体的な負担はなくても、恥ずかしさは変わらない。それどころかいつもよりリアルに彼の興奮を感じ取り、初めて土方の余裕のない姿を見たような気がした。
パンパン!と体が打ち付けられ、悲鳴が漏れた。
「素股でも…感じてるな」
「アッ!」
慣れてきたところで土方の手が昂る総司自身のものに触れる。そして同じリズムで擦られて、嬌声が漏れた。
「や、これっ…な、んか…」
「っ…嫌か?」
「違う…なん、か、変になる…!」
何度もこんな夜を過ごしてきたはずなのに、経験したことがない興奮のせいでまるで初めてのような気持ちだ。土方も同じだったのかいつもより余裕がない様子で
「俺も…変だ」
と総司の背中を抱きしめながら囁く。その声が鼓膜で艶っぽく響いたせいか箍が外れて、
「あ、あぁ…!」
と総司は土方の手の中で精を吐き出してしまった。すると土方も続いて果てて、二人は並んでその場に横たわった。荒い息とパチパチと響く火鉢の音…しばらく互いに着崩れたままだったが、先に息を整えた土方が身体を起こしながら「冷えるだろう」と肩に掛けてくれた。
「歳三さん…あの、もう終わりですか?」
「十分だろう」
「はは…確かに」
例え身体が繋がらなくとも、心は満たされていた。再び横になった土方の肩口に総司が顔を埋めると自然に土方の腕が差し出され、二人で何の変哲もない天井を見上げながら余韻に浸る。
「…歳三さん」
「なんだ?」
「これから稽古が疎かになって、私が貧弱な身体になっても…また抱いてくださいね」
「はは…なんだ、それ」
総司は冗談めかして言ったが、内心ではいつも(これが最後の夜になるかもしれない)と恐れていたのだ。抱き心地の良くない哀れな姿になってしまったら、彼は求めてくれなくなるかもしれない。
しかし土方は
「たとえお前が爺さんになっても、抱いてやるよ」
と言った。
土方がどれほど総司の本音を察していたのかはわからない。けれどその言葉で悲観的な気持ちはすぐに消えた。
「…私がお爺さんになったら、土方さんだってよぼよぼのお爺さんですからね」
「ああ、そうだな」
土方の手がぽんぽんと総司の頭を撫でる。
(確かに、今日は優しいな)
そう思いながら、総司は瞼を閉じたのだった。








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