わらべうた




787 ー帰花6ー


兄の遺体を駕籠に運ぼうとしたときに、状況は一変した。
不気味なほど静かだった暗闇の中から、まるで獣の群れに襲われたかのように人影が現れあっという間に俺たちを囲った。顔は黒布で隠されているが新撰組に違いないと確信できた。
兄を亡くした悲しみから途端に憎しみが沸きあがり現実に引き戻される…すでに抜刀していた衛士たちは兄と俺を守るように立ち塞がった。
「伊東先生を…!」
頼む、と誰かが言い終わる前に斬りあいは始まった。静寂を切り裂くギィンという音が鼓膜を揺らす。
俺は何とか兄の遺体を駕籠に乗せようとしたが、想定した以上に敵の数が多く一瞬でも背中を向ければその途端に隙を見せることになる…そんなぎりぎりの状況だったため俺も兄から離れて応戦せざるを得ない。抜刀し、どうにか奮闘した。
北辰一刀流と神道無念流を修めた兄ほどではないが、俺もそれなりに鍛えたつもりでいた。しかしこの土壇場になると身に着けた型など意味をなさず、ただ闇雲に刀を振るうしかできない。俺の壁になってくれた篠原さんや加納さん、服部さんもまともに敵を攻めることはできずどうにか持ちこたえているという状況だ。
(一体何人いるんだ…!?)
御陵衛士の数など新撰組は当然把握しているはず。それなのにいまだに数は増え続けている…総動員で襲撃してきているのだとすれば勝ち目はない。
(どうすれば良いんだ…)
半ば絶望しながら身を守るしかないなか、
「毛内ィィ!!」
突然、篠原さんの絶叫が聞こえた。素早い動きを得意とする毛内さんは誰よりも先に先陣を切って新撰組に突撃していったが、そのまま力尽きたのだろうか。俺は感情が昂り新撰組への憎しみが増していき、目の前の隊士を斬り倒した時も、蟻を踏み潰すのと大差ない殺伐とした気分だった。
(殺す、殺す…!俺がここで倒れても、絶対に…!)
頭が沸騰する。
自分の命などもうどうでも良い。兄の無念を晴らすため、同志のため、一人でも多く殺すことだけしか考えられなかった。
そんな時、
「逃げろ!」
と服部さんが叫んだ。篠原さんは
「馬鹿を言うな、こんな状況で…!」
「篠原、全滅する気か?!」
「しかし!」
強情な篠原さんは譲らず一歩も引こうとしないが、服部さんが敢えて篠原さんが相手にしていた敵を引き受けた。
「俺は鎖帷子を着ている、新撰組のことも良く知っている、自分の力量もわかっている!もともと死ぬつもりでここに来た!」
「そんな…」
「内海が言っていただろう、安易に命を投げ出すなと!誰かが犠牲にならなければならないなら俺が引き受ける!」
誰よりも前線に立っていながら、服部さんが一番冷静だったのだろう。その証拠に皆が不要だと言っても、戦支度を欠かさず鎖帷子を着用していた…たった一人で覚悟を決めていたのだ。
篠原さんは苦虫を嚙み潰したように顔を顰めたが、傍にいた加納さんと目を合わせた。二人は阿吽の呼吸で意図を汲み取りじりじりと退路へ下がり始める。そして俺は加納さんに「行こう」と手を引かれたが
「俺は戦います!!」
と拒んだ。
「馬鹿を言うな、服部が無駄死にになると言っただろう!」
「構いません!兄上を殺した奴から逃げ出すなんて…!」
「逃げるんじゃない、引くだけだ!」
加納さんが慰め、篠原さんが怒鳴る。けれど俺はどうしても飲み込むことができず目の前の隊士を斬り伏せて、服部さんの元へ駆けつけた。
「俺も残ります!」
疲れなんて感じないが、すでに息切れして動きは鈍い。服部さんはそんな俺を見て少し笑った。
「…鈴木君、兄君の気持ちを無駄にするな。本当なら君は美濃へ行っているはずだったんだ、それがどういう意図か…わかるだろう?」
「それは…!」
「一旦引け。先生のために、一矢報いるんだ」
服部さんはそう言うと、さらに前へ進み隊士たちを引き付ける。すでに満身創痍のはずだが勇猛果敢な剣捌きは周囲を圧倒し、たった一人なのに大きな壁となっている。
俺は己の無力さに悔しさを噛み締めながらも仕方なく敵に背を向けて兄の元へ向かった。こんなところに置いていくのは忍びない…と思ったのだが、
「やああァァ!」
と若い隊士が俺に斬りかかり、足をやられてしまった。熱い痛みを感じ俺が蹲っていると、篠原さんがやってきてその隊士を蹴り飛ばすと俺を半ば抱えながら走り出した。
「駄目です、兄上が!」
「…っ、残念だが、出直すべきだ!」
「だったら俺を置いていってください!俺なんかじゃなくて、兄を、兄上を…!」
小脇に抱えられながら俺は叫ぶ。けれど篠原さんは敢えて無視をして加納さんとともに駆けだした。当然数名の隊士たちが追いかけてきたが、服部さんの堅い守りのおかげで数は少なく加納さんがすぐに蹴散らすことができた。
けれど俺の目にはだんだんと小さく見えなくなっていく兄の虚しい遺体しか目に入らなかった。
(兄上…ごめんなさい、兄上…)
俺はこんな時まで使い物にならない役立たずで、足手まといで、いてもいなくても同じ人数合わせでしかないなんて。
そんな俺が生き延びて、兄が死んで…この先の未来に一体何の意味があるというのだろう。
俺は絶望の中で項垂れた。






『行ってくるよ』
気軽に手を振りながら去っていった伊東先生との再会が、こんなにも悲しく惨いものになるなんて…そんなことがわかっていたら俺はもっと強く引き止めたかもしれないのに。
「先生…」
「ああ、どうしてこんなことに…」
さめざめと泣く衛士たちのなか、俺は呆然と立ち尽くしながら自分の選択が果たして間違っていなかったのか…自分に問いかけていた。力なく横たわる伊東先生は傷だらけで血塗れだ。死に顔だけは穏やかに見えたけれど、俺にとっては見るのも辛い。この顛末がわかっていても…いや、わかっていたからこそそれが現実となるといっそう苦しい。本当は声を挙げて泣きたかったけれど、周囲には今か今かと待ちわびる敵の気配を感じていたので、感情に任せて理性を手放すわけにはいかなかった。
俺は唇を噛んで刀を強く握りしめる。
(…先生、仇は必ず…!)
これは伊東先生と俺の選択だ。
俺は誰かのせいにする人生ではなく、自分の信じた道を歩む人生を選んだ。それが旧友と敵対する道だとしても…先生をこんな目に遭わせた奴らを許すことはできないし、俺の選択の責任を取らなければならない。俺は先生の意思を尊重して見送ったのだから。
そして先生のご遺体を駕籠に乗せようと、数人が腰を屈めた時…ザザッと足音が聞こえた。それは数えられる数ではない…十数人の群れとなってこちらに近づいてくるのだ。
「来たぞ!」
篠原さんが大音声で叫び、俺たちは刀を構えた。自然と伊東先生のご遺体を守るような陣形となったのは衛士として当然だろう。
素早く前に出たのは毛内さんと服部さんだった。毛内さんはもともと先陣を切るのを得意としており技も巧みだ。致命傷は与えなくとも相手を負傷させて人数を削る。そして服部さんはただ一人武装してこの場に臨んでいた…他の衛士とは覚悟が違う。
そんな彼らを横目に、俺は三番手として立ち回った。敵のなかにはちらほらと見知った顔があり、俺の姿を見て実力差を悟り後ろに引く隊士もいた。新撰組なら士道不覚悟と糾弾されるはずだが、今の俺には好都合だった…俺は伊東先生のご遺体からは決して離れず背にして守りながら、次々と振り落とされる刀を避けていく。数人を斬り、血を浴びた。
「ヤァァァァァ!!」
俺は誰よりも大きく声を荒げた。そうするだけで怯む経験の乏しい隊士もいたが、それでも駆け寄ってきたのは…永倉さんと原田さんだった。
先に原田さん得意の槍が俺の頬を掠める。すぐに俺は避けて払い退けたが、次に襲い掛かる永倉さんは簡単にはいかない。試衛館にいた頃から冷静で正義感に溢れ真っすぐな永倉さんはいつも無駄のない動きで刀を振るい、その実力は沖田さんと並んでいて俺はついていくので精いっぱいだった。何より池田屋で俺は重傷を負い、永倉さんが軽傷で済んだことが実力差を示しただろう。しかし火事場の馬鹿力というものなのか、いまは対等に渡り合っている気がした。それが何でだろう…無性に嬉しい。
「あっちに行ってろ!」
原田さんが怒鳴り、周囲の隊士が後ずさる。不思議なことに永倉さんを相手にしていると他の隊士は別の衛士へと向かっていった。もともと俺の相手をするのは二人に決まっていたのだろう…これは食客としての同情なのだろうか。
永倉さんをどうにかやり過ごすと、再び原田さんの槍が向かってくるがいつも猪のように突進して、払われると大きく仰け反る。そしてまた永倉さんの厳しい太刀筋が降りかかり耳元で刀が弾く音を聞きながらどうにか避ける…それを何度も交互に繰り返す…馴染み深い彼らの太刀筋は見慣れていて、これではまるで試衛館にいた頃の稽古のようだ。あっちだ、こっちだと自分の実力を試しあい、己を高める…追い詰められているのにそんな時間が思い出されてなんだか懐かしい。
その楽しさに浮かれたせいなのか、二人の画策だったのか、俺はいつの間にか伊東先生や衛士たちから少し離れ戦いのど真ん中からは外れた所で刀を振るっていた。
すると二人は急に顔を見合わせて手を降ろした。
「…平助、逃げろ」
永倉さんの言葉に俺は「えっ?」と驚く。しかし聞き間違いではなかったようで、原田さんは「ほら!」と逃げ道を示した。
「俺たちは最初からそのつもりだ。上手くやるから心配するな」
「早く行けよ」
「永倉さん…原田さん…」
彼らが俺を見る眼差しは変わらず兄弟を見るかのような慈しみがある。彼らが本心から俺を思っていることはすぐに理解できて、その優しい誘いに俺は決心が揺らいだが、
「毛内ィィ!」
篠原さんの悲鳴を聞いてハッと我に返った。振り返ると伊東先生のご遺体の周りで衛士たちが奮闘している姿が見える。その一人で前線にいた毛内さんが力尽きたのだろう…そう思うとこんなところで悠長に彼らとの邂逅を懐かしみ、それどころか裏切ろうとしている自分が情けなかった。
「…できません」
「平助!」
俺は再び刀を振り上げて原田さんへ向かっていった。彼は目を見開いてどうにか受け止めつつ
「なあ、頼むよ平助…!俺ァお前を斬りたくねぇよ!」
と懇願する。
原田さんはいつも熱い人でつい感情が優先してしまうけれど、気骨のある姿は頼りがいがあって兄貴分として尊敬していた。そんな原田さんの言葉には嘘がなくて、本心で俺を助けようとしてくれているのはわかっているけれど。
俺は原田さんの槍を振り落とし、二人と距離を取った。
「…俺がここから逃げたって、いつか殺すんじゃないですか?監察に張らせて、命を狙われ続けるならいま決着をつけたいです」
「そんなわけねぇよ!」
「近藤先生の命令だ、絶対にありえないと約束する!」
二人が青ざめて即座に否定した。
「近藤先生は秘密裏に俺たちにお前を助けるようにと命令したんだ」
「あの人は絶対に嘘はつかねぇよ!」
「…」
知っている。近藤先生は誠実で嘘をつかない…俺を助けたいと言ってくれたのもきっと本当なのだろう。驚くほどのお人よしなのだから。
でももう、信じられるかどうかの問題じゃない。そんな曖昧な話じゃない。
「でも俺は…俺は、新撰組を許せません!伊東先生をあんな風に無残に殺したあなたたちを絶対に…!」
「……」
「だから逃げたくない。逃げたら新撰組に屈して、許してしまうみたいだ…!」
二人は必死に俺を説得しようとしていたのに、急に言葉を失った。新撰組が伊東先生を殺したのは事実で、言い逃れできない現実だったからだろう。二の句が継げず原田さんは「くそっ」と悔しそうに吐き捨てた。
そうしていると
「逃げたぞ、追え!」
と声が響き、さらにご遺体の周辺が騒がしくなる。振り返ると大柄な篠原さんの姿がない…加納さんや鈴木君、富山さんも一緒に逃げ出したのだろうか、大勢の隊士たちが流れ込むように同じ方向へと追いかけていく。それを堰き止めるように服部さんが善戦を続けていたが、腕の立つ彼でもさすがにあの数は無理だ。
(俺も加勢に行かなきゃ…!)
踏み出した時、俺の腕が掴まれた。
「…永倉さん…!」
「平助。それでもいいんだ。許せなくていい、許さなくていい。…当たり前だ、自分の主君だと思っていた人が殺されたなら、恨んで当然だよな」
「…」
「恨んだままでいい。俺たちを許してほしいなんて言わない。俺たちは…ただ生き延びてほしいだけなんだ。俺も左之助も、近藤先生も、総司も…土方さんも、そう思っているだけなんだ」
永倉さんが「そうだよな」と原田さんに視線を送る。原田さんは何度も何度も頷いて俺を見つめた。二人の表情から真摯なものを感じ、俺の心がまたぐらりと揺れた。
(ああ…俺の覚悟なんて、大したことないなぁ…)
俺は子どもでいつも目の前のことばかりに左右されてしまう。山南さんの時もそうだった、物事の奥深くまで考えることができずすぐに感情的になってしまって周囲に当たり散らした。今だって、伊東先生の無念を晴らすべきだとわかっているのに…二人の温かい友情をひしひしと感じ、それに寄りかかってしまいたくなる。
俺は永倉さんの手から逃れ、ふらふらと一、二歩後ろに下がる。そうしている間にも隊士の数は増えていき、服部さんもついに限界を迎えたのか勢いを感じなくなった。ほとんどの隊士は逃げ延びて行った篠原さんたちを追いかけて行ったようだが、俺の周りにも事情を知らぬ隊士たちが近づいているのが分かる。
もう時間はない。道を開けてくれた二人のために、それに応えるべきなのかそうではないのか…。
「藤堂…!」
迷っている俺は振り返った。
「…ひじ…」
俺の元へ土方さんが走ってくる…その表情は永倉さんと原田さんと一緒で、鬼副長ではなくかつて試衛館にいた頃の土方さんに違いない。遊び人でいつも浮ついているのに…肝心な時は絶対に頼りになる、そんな人なのだ。
土方さんは俺に『行け』と言わんばかりに頷いた。永倉さんや原田さんだけじゃない、事前に知らせてくれた斉藤さんやそれを促した沖田さん、そして近藤先生や土方さんまでも俺の身を案じてくれている…彼らの友情を無碍にしても良いのか?
(俺は何を選べば良いのだろう…)
俺は無意識に夜空を見上げた。淡い月の光は何も答えてはくれないけれど、俺の心を優しく照らし出す。
俺は自分の信じた道を歩むと決めた。
(俺が信じたのは…伊東先生だ)
『最後まで決めたことを貫きたいと思います』
どんな真実があったとしても伊東先生を信じることが何よりも自分の励みになる。そう言った俺に伊東先生は優しく微笑んで
『ありがとう』
と言った。あの時、今までどこか壁を感じていた先生とのやりとりから、ようやく互いの心に触れたような気がした。
(俺は先生のために…生き延びるべきだ)
永倉さんが言う通り、たとえ無様でも恨んだまま、憎んだまま…この場を生き延びるべきじゃないのか?
先生は御陵衛士の壊滅を望んでいたわけじゃない…たとえ自分がいなくなっても存続できる道を探してほしいと願っているはずだ。その証拠に内海さんは伊東先生の遺言に従い月真院で俺たちの帰りを待っているのだから。
(屈したんじゃない、負けたんじゃない…生き延びて御陵衛士を続けるんだ。それが伊東先生への餞となる…!)
俺は視線を戻し、みんなに促されるまま走り出そうとした。彼らの友情のおかげで俺はまだこの道を歩むことができる―――と、思った時だった。
「待てい!」
突然聞き慣れない男の声がして、同時に背中に熱いものを感じた。ガクン、と身体の力が抜けて倒れ込みそうになる。
「平助ェェェ!!!」
痛みが伝わるよりも先に原田さんの悲鳴で状況を理解した。俺はどうやら斬られたらしい…しかもかすり傷では済まされない、後ろ傷で。顔を顰めた永倉さんが咄嗟につんのめった俺に手を差し出したが、俺はどうにか踏ん張って本能的に手にしていた刀を横に払った。斬りかかった者の脇腹に当たり勢いよく倒れ込んだようだが、死んだかどうかはわからない…その反動で俺自身も消耗したが、でもそうしなければならないと強く思ったのだ。
(後傷は武士の恥…!)
…そんなことを思った俺のなかには、まだ新撰組の血が流れ続けていたのだろう。『魁先生』と呼ばれるのは嫌だったのにな…。
俺は片膝をつき、肩で息をしたがそれでも痛みで苦しい。気持ちに余裕がなくなり意識が朦朧として…近づく者全てが敵のような気がして、無我夢中に刀を振り回した。だが血を流しすぎたのだろう、それもできなくなって倒れ込むとそれは原田さんの腕の中だったようだ。霞む視界のせいで顔はよく見えないけれど、彼らが泣いているのはわかった。
「平助、平助…!」
「…大丈夫だ、池田屋の時と一緒だ…きっと塞がる!」
(どうですかねぇ、前より痛いんだけど)
そうやって軽口で返したかったけれど、もうその気力もない。次何かを喋ったらきっとそれが最期になってしまう気がした。
(だとしたら、何を言い残したら良いのかな…?)
原田さんと永倉さん…そこに土方さんもいるのだろう。彼らがどんな顔をしているのか、なんとなく想像がつく。俺は試衛館食客であることを厭うてその肩書を重荷に感じていたけれど…皆にとってまだ俺は間違いなく食客の一人だと思ってくれていた。
こうやって別の道を歩んだ末に敵対することになってしまったけれど。
(俺は皆を信じたかった…信じられる強い自分でいたかったんだな…)
長い、長い、回り道をした気がする。
伊東先生のようになりたかった。組織から反目しても貫く文武両道の美しい強さに憧れて…もっといろいろなことを教えてほしいと思ったのも本当なんだ。
でも、俺は…ずっと…みんなと一緒にいたかった。試衛館の頃のように遠慮なく本音でぶつかれる、あの時のように暮らしていけたなら良かったのに。
でも彼らが見送ってくれること…裏切り者ではなくて、仲間としてそこにいてくれることが本当は嬉しくて安心している。
だったら伝える言葉は一つしかない。
「ありがとうござい…ました…」
俺は伊東先生を選んで、ともに逝くことになるけれど、皆への感謝を無くしたわけじゃない。
みんなに出会えた感謝を。
俺を武士にしてくれたことへの感謝を。
俺が出ていくのを見送ってくれたことへの感謝を。
俺を助けようとしてくれたことへの感謝を。
俺の生き様を見届けてくれたことへの感謝を。

…これはきっと幸せな結末とは言えない。
でも、俺にとって悪くない終わり方だと思うんだ。












解説
なし

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