総司は同じ布団を共有しながら、土方が話すこの数日間の出来事に耳を傾け続けていた。
伏見で別れてからまだ十日ほどしか経っていないはずなのに、土方や新撰組の隊士たちが経験したことは重々しく、目の前で繰り返される惨劇と裏切りにはその場にいなくても憤りを覚えた。すでに耳にしていた井上の戦死や隊士たちの悲惨な末路は総司の感情を昂らせる。
けれど土方は淡々としていた。むしろ彼はそうやって総司に聞かせることで、これまでのことを整理して今後のことを思案しているかもしれない。
(まだ戦は終わっていないのだから…当たり前か…)
土方はいまだに身体のどこかに力が入ったままなのだ。仕方ない…とわかっていても、せめて今くらいは休息してほしくて総司は土方の鎖骨に顔を埋めた。
「…どうした?」
土方はこれまでの経緯を一通り話し終えて少し憑き物が落ちたような顔をしていた。総司は気の利いた返答をしたわけではなかったが、吐き出すだけで随分と楽になったのかもしれない。
けれど総司は徳川や新撰組が置かれている状況を理解して、少しだけ胸が苦しくなった。
「…近藤先生や浅羽さんは楽に勝てるはずだと話をしていたのに…何もかもひっくり返ってしまったんですね」
「ああ…状況を五分と五分に戻す機会はあったはずだ。だが、錦の御旗のせいで一気に状況が変わった。目に見えてはっきりわかるくらいにな…」
土方はゆっくりと目を閉じた。瞼の奥に一体何を見ているのか…総司には想像しかできない。きっと想像すら及ばない。
「色々…知りたいと思っていたけれど、知ってしまうと何もできないことが歯がゆいです」
「…そうだな。俺がお前の立場なら同じことを思っただろう。かっちゃんの命令を無視して何が何でも戦場に向かっていたかもしれない」
「近藤先生も同じお気持ちでしょうね…」
「鬱憤が溜まっているだろうからな。今頃、幕閣を相手に息巻いているかもな」
近藤は大坂城へ向かい、籠城に向けて備えているはずだ。明日の早朝には土方たちも入城して合流し、再び戦地に立つことになる。
(連れて行ってほしい…なんて、烏滸がましいことは言えない)
負傷して運ばれた隊士たちや、既に虫の息となった山崎、土方の過酷な話を耳にするとどれほど自分が足を引っ張ることになるのか容易に想像できる。
総司は土方の胸板に身体を預ける。すると土方がその手を取って小指の指環に触れた。
「…ちゃんと付けてるな」
「ちゃんと付けてます。…少しぶかぶかになっちゃいましたけど」
「それでいい…なんでも、お前が持ってるなら…」
土方は総司の掌を自分のそれと重ねがながら指先で指環を弄び、少し表情を緩ませた。人に贈り物をするのは趣味じゃないと言っていたくせに、案外悪くないと思っているのかもしれない。
「…歳三さんは揃いの指環をしようとは思わなかったんですか?」
「揃いか…考えもしなかった」
「どうしてですか?」
「さあな…ほら、顔を上げて口を開けろ」
土方の指先は指環から総司の顎へと移り、上向かせてもう何度目かもわからない口づけをかわした。川辺では冷たくてカサカサに乾いていた彼の唇が、今は熱を帯びて潤み啄むと小さな音を立てた。
会話の合間にまるで互いの存在を確かめ合うように繰り返していた。
「…あの」
「ん?」
「私にできることは…ありますか?」
療養を続ける一体自分に何ができるのか…幾度となく考えたところで答えは浮かばない。土方は少し考えた後、
「…お前はここにいればいいだろう」
と言った。
「ここにって…」
「俺の腕のなかでそうして待っていればいい。温かいし、腕のなかに収まってちょうど抱き心地もいい」
「…私はそういう意味で聞いたわけじゃ…」
人が真剣に訊ねているのに、と思ったが土方の顔は真面目そのものだ。彼が本心からそう思っているのだと理解して、総司は子供のように土方の胸に飛び込んで一層強く抱きついた。すると土方も満足げに抱き返して互いの重さを感じた。
「…さっきの話ですけど。私は…揃いの指環をしてほしいです」
「何故?」
「ここで待っている間、思っていた以上にこの指環に救われました。だから…歳三さんにとっても、そうであったら良いなって思うんです」
このぶかぶかの指環がお守りのように総司の傍に在り続けたように、土方にとって同じように彼を強く励まし背中を押すものが在ればいい。
「…わかった、考えておく」
土方は総司の後頭部に手をまわして、強く、しかり優しく包み込むように抱きしめたのだった。