万華鏡  888.5




蝋燭の儚い光がゆらゆら揺れている。薄暗い灯りの中で互いの存在を強く意識するように手を伸ばし、腕を絡ませ、胸が重なり…次第に土方に抱えられるように寝台に背中を落とした。それからも口付けは止むことなく続き、もうこのまま溶けてしまうのではないかと錯覚するくらい体が熱くなっていた。
けれど息苦しさで少し咳き込んだ時、土方の表情が正気に戻って
「悪い…」
と謝った。気持ちが昂って理性が働かなくなってしまったことを詫びたのだが、それは総司も同じだった。
「…謝らないでください。今だけは…」
総司は離れてしまった土方の体をもう一度引き寄せるように袖を掴んで引き寄せた。彼の首筋に指先を這わせると短くなった頸に触れて、何だか不思議だった。目の前にいるのは土方に違いないのに、髪も服も別人のようで。
「…苦しそう。これどうやって外すんですか?」
総司は覆い被さった土方の服のボタンに手を伸ばした。
土方は「こうだ」と器用に指先を動かして次々に外していき、最後はその上着を脱ぎ捨ててしまった。その全てが卒なくこなされてしまい、総司は感嘆のため息を漏らすしかない。
「…悔しいくらい、様になってますね…」
「そうか?自分で選んだこととはいえ、なんだか滑稽な人形のような気がする」
「そんなことはありませんけど…ただ、なんて言うか…」
総司は湧き上がる妙にそわそわするような昂る気持ちがうまく言葉にできなかったが、土方はふんっと鼻で笑った。
「興奮するか?」
「…そんな趣味、ないはずなんですけど…」
「今まで知らなかっただけだ」
「そうかなぁ…」
土方は「気が抜けた」と笑って、総司の隣に横になった。一人分の狭い寝台では窮屈なため総司は彼の腕の中に収まって、その鼓動が聞こえそうな場所に顔を寄せた。
「…あの、ずっと聞きたかったことがあるんですけど」
「なんだ?」
「江戸に戻ったらこんな機会滅多にないし…せっかくだから教えて欲しいんですけど」
「長い前置きだな、何でも聞けばいいだろう」
土方は何を遠慮しているのかと言わんばかりに促したが、総司としてはどう切り出したら良いのかわからなくて目が泳ぐ。けれどここで引き下がっては後悔するだろうと意を決した。
「歳三さんは…私のどこが、その…」
遊離で名を馳せたと豪語してきた土方が、一体自分のどこを気に入ったのか、総司は今まではっきりと尋ねたことはなかった。
けれど火を吹くように顔が熱くなって「やっぱりいいです」と撤回したが、土方は少し笑って
「…かれいどすかふ、って知ってるか?」
「え?…ああ、昔…試衛館にいた頃、大先生と一緒に見世物小屋に行った時に少し見たことがあります。『かれいどすかふ』とか『色眼鏡』とか…子どもたちが遊んでましたね」
「そうだ。俺も何度か覗いたことがある。回すごとに模様や形が変わる…仕組みとしては単純だが、面白いと思った」
「…それが何か?」
一体自分のどこに好意を持ったのか、という話にどうやってつながるというのか。総司は首を傾げたところ、土方は指先で総司の髪を弄びながら
「お前に似てると思って」
と言った。
「に、似てるって…」
「ころころ表情が変わって、わかったと思ったら知らない面が出てきて、いつまでもつかみどころがない。そのくせ…何故か目が離せない。ずっと覗き込んでも飽きないし、美しいから誰にも渡したくないと思う…そういうところだ」
「……変なの…」
具体的な返答を期待していたのに、万華鏡に例えられてしまい総司は反応に困ってしまう。けれど土方が自分を追い求めていたのだということは伝わって、羞恥のあまり顔が燃えるように熱い。そんな総司の様子を見て土方は守に触れるのをやめて、うなじから首筋、鎖骨へと指先を這わせた。身体を丸めて「くすぐったい」と逃れようとするその腕を捕まえて、後ろから抱きしめた。
背中から伝わる体温は、やがて羞恥を溶かして穏やかな心地よさに変っていく。
「…なんだか、眠くなってきました…」
「寝たらいい」
「このまま…一緒にいてくれますか?」
「お前が深く眠るまではこうしてやる」
背中越しに聞こえる土方の声は、優しく慈しむように鼓膜に響く。もう少し聞いていたいと思ったけれど、山崎の水葬から始まった長すぎる一日に精根尽き果て、すぐに眠りについた。

―――夢を見た。
目が覚めた時には具体的な内容は何も覚えていなかったけれど、目に焼き付くように眩しい光が降り注ぐ…万華鏡のようにそんな場所に二人きりでいる、幻のような儚い時間だった。




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